心不全

以下の項目に当てはまる方は要注意です

  • 息切れ
  • 動悸
  • 呼吸苦(横になったり、夜寝ていると息苦しい)
  • 手足や顔のむくみ(浮腫)
  • 倦怠感、疲れやすい
  • 食欲低下
  • 腹部膨満感
  • 尿の量が少ない(尿量の低下)
心不全
上記のような項目に当てはまる方は心不全の可能性があります。心不全は放置すると、心臓の機能がどんどん悪化していき、最終的には死に至ります。そのため、早期に発見し、早期に治療をすることが重要ですので、少しでも心当たりのある方はお気軽に当院へご相談ください。

心不全とは

心臓は全身に血液を送り出し、そして回収するとても大切なポンプの働きをしています。そのポンプが上手に働かないと、全身の色々な部分に負担がかかり、心不全の症状が発症します。つまり心不全は病名ではなく、心臓が血液を体内に適切に送り出せなくなる状態のことをいいます。また、一概に心不全と言っても原因や自覚症状は人によって様々で、心筋梗塞や心臓弁膜症によるもの、長年の高血圧による心臓肥大によるもの、心筋症によるもの、不整脈による頻脈や徐脈によるもの、時として心臓以外の原因(例えば甲状腺機能の異常など)によるもの、など多岐にわたります。
心不全には、徐々に進行して発症する慢性心不全と、急に発症する急性心不全があります。それぞれ原因は異なり、治療法も異なっています。
慢性心不全は、患っている病気により徐々に心臓の機能が低下することをいいます。心臓のポンプ機能が徐々に低下していくので、その代わりにポンプの力を補おうとして、代償機構(心拍出量を維持しようとする様々な作用)が働きしばらくは症状が出ません。このため、一般に症状が現われたときには、かなり悪化した状態になっているケースが多いです。
急性心不全は、急性心筋梗塞などの疾患が原因で発症するケースが多く、呼吸困難など、いろいろな症状が急激に現われます。その結果、心拍出量が大きく低下して血圧が維持できなくなり、ショック状態に至ることもあります。

原因

心不全の原因疾患は、虚血性心疾患、高血圧性心疾患、弁膜症の3つが主に挙げられます。
心不全

虚血性心疾患

心不全の3大原因の中で一番多いのは虚血性心疾患になります。虚血性心疾患とは心筋梗塞と狭心症のことをいい、心不全になる原因として最も多いとされています。狭心症では血管の狭窄は起きますが、心臓は動いているため、心不全にまではなりません。しかし、症状が進行して心筋梗塞になると、心筋梗塞の範囲が大きければ、それだけ心臓の筋肉の壊死する範囲も大きくなるために、心臓のポンプ機能が低下して、急性心不全を引き起こします。

高血圧性心疾患

高血圧を放置すると、心臓に負荷がかかり、心臓の筋肉が肥大して硬くなっていきます。筋肉が肥大化すると、心臓が強くなるイメージがありますが、実際にはそうではなく、心臓には大きな負担がかかり、心臓の筋肉は肥大化して線維化します。心臓の筋肉が線維化すると、心臓が硬くなることで、拡張と収縮を繰り返すポンプ機能が低下していきます。その結果、血圧に対して十分に心臓が拡張できないため、心臓の中の圧が高まり、徐々に肺に水が貯まり、心不全状態となります。

弁膜症

弁膜症とは、心臓にある4つの弁のどこかに異常が起こり、弁の働きができなくなっている状態のことを指します。弁の開きが悪くなり出口が狭くなる「狭窄」、弁がしっかりと閉じなくなり血液が逆流してしまう「閉鎖不全」があり、そして「狭窄」と「閉鎖不全」が同時に起こることもあります。
また、弁膜症の多くはゆっくり進行するため、初期段階ではほとんど自覚症状がありません。しかし、気づいたときには心不全になって、取り返しのつかない状態になることもあります。

大動脈弁狭窄症

動脈硬化と加齢によって大動脈弁が硬くなって開きにくくなります。そうするとその分、血液を送り出すために、心臓がより圧をかけて収縮する必要があります。その結果、心臓に負荷がかかり、筋肉が肥大してくるので、高血圧性心疾患と同じような経過で心不全を起こします。

大動脈弁閉鎖不全

心臓が収縮期に大動脈へ押し出した血液が、弁がしっかりと閉じないことで、拡張期に心臓へ戻ってきてしまいます。その心臓へ戻ってきてしまった血液と、肺・左心房から送られてくる次の血液が合わさって、心臓にため込んでしまう血液量が増えます。そうすると、代償機構が働くので、心臓は拡大することで対処しようとします。しかし拡大するには限界があるので、これ以上拡大できないところまで閉鎖不全が進むと、心臓の中に圧がかかり、心不全を起こしていきます。

僧帽弁閉鎖不全

本来は乳頭筋が左室側にひっぱっているおかげでしっかり閉じている僧帽弁が、それらを繋ぐタコ糸のような腱索が変性し断裂してしまうことで、しっかり閉じることができなくなる病態です。しっかり閉じずに本来左心室側にあるべき僧帽弁が、収縮期に左心房に翻ってしまうのです。そうなると血液は、収縮期に左心房に逆流してしまいます。逆流すると、大動脈弁閉鎖不全で心不全を起こすのと似たように、左心房の拡大と心臓の中の圧の上昇を経て心不全を起こしてしまいます。

症状

心不全の症状は、左心不全か右心不全によって異なります。

左心不全

心臓の左心系の異常で起こる心不全です。心臓の左心系のポンプ機能の働きが落ちると、肺からの血液が戻ってこれなくなったり、全身に血液を送り出せなくなります。肺からの血液が戻ってこられなくなることで、肺に血液がたまる「肺うっ血(はいうっけつ)」の状態となり、次のような症状が出ます。
  • 息切れする
  • チアノーゼ
  • 横になると息苦しく、起き上がって座ると楽になる
  • 呼吸困難
  • 動悸
  • 全身倦怠感(疲れやすい)
  • 手足の冷え
  • 喘鳴

右心不全

心臓の右心系の異常で起こる心不全です。右心系(右心房、右心室)とは全身をめぐった血液が戻ってくる場所です。戻ってきた血液は、右心房を経由して右心室から肺に送り出されます。右心不全になると肺に血液を送り出すことができなくなるため、心臓に血液がたまってしまいます。その結果、心臓に戻ってくる血液を受け入れることができず、全身に血液がたまってしまう状態になり、特に下腿が浮腫むようになりますが、以下のような症状が出ます。
  • 体重増加・浮腫・頸静脈怒張・吐き気
  • 食欲不振・悪心・胸水
  • 腹水・胸水

検査

心不全の検査方法には、血液検査、胸部レントゲン検査、心電図、心エコー検査などがあります。
心不全

血液検査

血液検査では、BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)というホルモンの数値を測定します。「心臓の負担」の程度をみる血液検査です。BNPとは、心臓から分泌されるホルモンで、心臓への負担が大きいほど多く分泌されます。BNPが高い数値の場合は、「心臓に負担がかかっている」状況を反映しており、「心不全」を診断する上で重要な指標になっています。また、BNPは自覚症状が出る前から血中濃度が上がるので、心不全の早期発見に役立ちます。

心エコー検査(心臓超音波検査)

心エコー検査では、心臓の動きをタイムリーに観察できます。心臓の大きさ、動き、心筋梗塞や弁膜症の有無を確認したり、下大静脈(右房に静脈血を送り込む血管)の張りから、うっ血具合を観察したりします。

SpO2(酸素飽和度)

指にモニターを付けて、身体の酸素化を図ります。SpO2は正常な方は96〜98%程度で経過しますが、心不全の方は数値が下がり、90%を切ることもあります。

胸部レントゲン検査

心臓の形状、胸水が異常に溜まっていないかなどを把握することが出来ます。エックス線を当てて得た画像から、心臓の状態を診断します。

心電図

胸などに電極を付け、心臓の活動をグラフの形に記録して診断します。脈の早さが正常かどうか、不整はないか、心筋梗塞や不整脈の有無などが確認できます。

治療

心不全の治療方法は、急性心不全と慢性心不全では異なり、目指すべき治療目標も異なります。

急性心不全の治療

急性心不全における治療目標は、「命を救うこと」と「症状を改善させること」になります。まずは救命を図り、容態を安定させるます。呼吸を楽にするために酸素を投与したり、さらに心臓を力づける強心薬や、体に溜まった水分を取り除く利尿薬などを使用し、血液の循環を改善させます。心筋梗塞が原因であれば、心筋梗塞の治療を優先させます。
上記のような治療によっても血圧・脈拍や血中の酸素濃度が改善しない場合は、カテーテルや、外科的手技が必要となることもあります。そのような場合には、提携している医療機関に即時ご紹介させていただきます。

慢性心不全の治療

慢性心不全における治療目標は、今後の生活の質(QOL)を向上させること、症状の進行を防いで予後を改善させることになります。心不全は何もしなければ徐々に悪化する病気であるため、治療では生活習慣の見直しと薬物療法を行い、予後を改善させて、死亡のリスクを少しでも下げることが重要になります。
生活習慣の見直しとして最も重要なのは、塩分制限です。軽症の人は、食塩摂取量を1日7g以下、重症の人は1日3g以下に制限することが推奨されています。
薬物治療においては、肺鬱血や浮腫を改善させるための利尿剤が必要になります。また、心臓の負担を軽減させる目的で、血管を拡張する薬とベータ遮断薬を使用することがあります。ACE阻害薬やARBは血管を拡張して、心臓の負担を軽減します。心不全になると、血管を収縮させるアンジオテンシンⅡというホルモンの生成が促進され、さらに心不全が悪化するという負のスパイラルに入ってしまいます。このスパイラルを断ち切るために前述の薬を使用し、心不全の発症を制御します。
もうひとつ大切な治療薬はβ遮断薬で、賦活化された交感神経が頻脈や血圧上昇をもたらすために、β遮断薬はこのスパイラルを断ち切り、心不全を改善させます。

心不全患者の運動療法の重要性

心不全の治療で、運動療法は非常に重要な役割を果たします。運動療法は衰えた体力と筋力を回復させます。
また、運動療法は身体の循環機能を向上させる効果もあり、これにより、心臓への負荷が軽減され、病状悪化の予防にも有効です。
さらに、運動療法は自分の体力や能力に合った運動を行うことで、生活の質が向上させ、社会復帰に寄与します。
しかし、心不全の運動療法は専門的な知識が必要になるので、循環器専門医のアドバイスを受けるなどして、安全かつ効果的に行うことが基本となります。

運動療法の効果と心不全の治療

運動療法は心不全の改善に重要な役割を果たします。運動療法は、体力と筋力を回復させ、身体の循環機能や心機能を向上させることが期待できます。 体力や筋力が向上すると、心臓の酸素消費量が低下します。これにより、心臓への負荷が軽減され、身体の循環動態が改善され、血圧が安定したり、呼吸機能の改善が期待できます。 また、運動療法は予防的な効果もあります。適度な運動によって、免疫力が向上し、病気の再発や合併症の発生を防ぐことができます。 不慣れな運動は心不全を悪化させることもあるので、循環器専門医に相談して進めていきましょう。

心拍数や血圧を測定し、効果的な運動強度を見つける

心不全において、運動療法は体力や筋力を回復させて、症状の改善や生活の質の向上に効果があるとされています。まずは適切な運動強度を見つけるために、まず心拍数や血圧の測定が重要です。これにより、運動時の心臓の負荷を把握し、運動による症状の悪化を防ぎます。 心拍数の測定は、心拍計や指先に装着するパルスオキシメータを利用するのが一般的です。一方、血圧の測定には腕に巻くタイプの血圧計が便利です。 適切な運動強度は、医師の指導のもと、徐々に増やしていくことが望ましいです。最初は軽い強度から始め、徐々に運動時間や負荷を増やすことで、心臓機能の改善や循環の向上が期待できます。また、運動中に息切れや胸痛が起こらないよう、適切な休憩も必要です。 効果的な運動強度は個々の状態によって異なるため、継続的な測定や評価が重要です。

効果的な運動プログラムとその実施方法

効果的な運動療法は、基本的には酸素運動が中心です。例えば、ウォーキングやサイクリングなどが適しており、無理のない範囲で行うことが大切です。
運動前に必ずストレッチやウォームアップを行い、筋肉や関節をほぐしましょう。そして、運動を週に3回以上、1回30~60分を目安としますが、1日2回に分けても大丈夫です。
途中で疲れたら無理をせず休憩し、運動後にはクールダウンを行うことで、体への負担を軽減できます。これらの運動を継続的に行うことで、心臓機能や生活の質の向上が期待できます。

慢性心不全と高齢者に適した運動

慢性心不全や高齢者の運動療法は、心機能を維持・向上させるために重要な役割を果たします。特に、有酸素運動や筋力トレーニングが効果的とされています。
有酸素運動は、ウォーキングやサイクリングなどで、息切れしない程度が望ましく、心臓や血管に無理な負担をかけずに循環機能を向上させることができます。筋力トレーニングでは、太ももなど大きな筋肉群を中心に行い、筋力低下による血圧の低下や循環障害を予防します。
高齢者に対する運動療法では、特に注意点もあります。過度の負荷による関節痛や転倒による骨折のリスクがあるため、過度な負荷や無理な運動は避けることが大切です。また、運動中に症状が悪化した場合は、速やかに運動を中止し、医師に相談しましょう。
慢性心不全や高齢者に適した運動は、適切な強度で行われることが重要であり、継続して行うことで心臓機能の改善や生活の質向上が期待できます。

運動の安全性と注意事項

生活の質を向上させるためには、適切な運動療法を行うことが大切です。心不全では身体の循環機能が低下し、酸素供給が不足するため、運動の強度や時間には注意する必要があります。
また、心拍数や血圧の測定、呼吸の様子をチェックしながら運動を行い、症状悪化を回避しましょう。心不全の方は自覚症状がない場合でも、医療機関で定期的な検査や評価が必要です。また、運動療法だけでなく、薬物治療や食生活の改善も心不全の治療にとって重要になります。
運動を継続的に実施することで、症状が安定し、患者の生活が改善されることが期待できます。

禁忌事項と運動療法を行うべきではない判断基準

心臓の状態や循環機能が大幅に低下している場合、運動療法はやってはいけません。
具体的な禁忌事項としては、高度な循環不全、血圧や心拍数が不安定な状態、肺炎など感染症が合併している場合が挙げられます。

運動継続による疾患の予防と安定化

継続的な運動は、体力と筋力を回復させ、心不全悪化の予防にも役立ちます。症状がなくなっても、継続して診察と評価が執拗になりますので、主治医と密に連携しながら適切なケアを心がけることが大切です。循環器専門医のサポートを受けながら、最適な運動療法に取り組みましょう。