肺塞栓症
肺塞栓症(肺血栓塞栓症)とは、足(太もも、ふくらはぎ)の静脈にできた血液の塊(血栓)が静脈から流れ出し、最終的には肺の血管である肺動脈を詰まらせてしまう疾患です。これにより、心臓から肺へ酸素を運ぶ血流が妨げられ、肺循環障害が起こります。
足の静脈内に血栓ができる事を「深部静脈血栓症」といいます。この血栓は、長時間動かずに同じ姿勢を続けることで発生しやすくなります。例えば、長時間座っている飛行機の旅や、病院での長期間の入院中などです。これらの状況は「エコノミークラス症候群」とか「旅行者血栓症」と呼ばれることがあります。
肺塞栓症は急性心筋梗塞と比較しても死亡率が非常に高い危険な病気です。肺塞栓症が起こると、軽度であっても速やかに治療を開始することが重要です。急性期は総合病院で治療することになります。退院後も定期的に医療機関で治療を受けて、再び血栓ができないように注意が必要です。
当院では、深部静脈血栓症や肺塞栓症の急性期後の定期的なフォローアップを行っています。

肺塞栓症の症状

肺塞栓症の症状は、血栓の大きさ、塞がった肺動脈が及ぼす影響範囲、患者様のそれまでの健康状態などによって、無症状から重症までさまざまです。
突然の息切れ・呼吸困難
歩行中の息切れや呼吸困難で息苦しくて、動けなくなる。
胸や背中の痛み、胸部圧迫感・不快感
肺塞栓は肺動脈の血流が途絶するために肺梗塞(肺の組織が壊死)を起こすことがあります。呼吸器に胸部や背部の痛みを伴うこともあります。
めまい・ふらつき・動悸
血圧が下がるために意識が遠のいたり、動機を感じることもあります。
失神・ショック状態
血圧がさらに下がると血圧が測定不能になり、意識を完全に失います。
心停止
大きな血栓が肺に詰まると、肺での酸素化が行われなくなるために、突然死を起こすこともあります。
飛行機や新幹線で長時間同じ姿勢で座っていたり、入院や手術後で長時間臥位(横になる)になった後に「胸の痛み・息苦しさ、息切れ・足のむくみ」は、肺塞栓症の症状として、みられることがあります。これらが当てはまる方は、早期発見のためにまずは当院にご相談ください。

肺塞栓症の原因

肺塞栓症は、深部静脈血栓症による血の塊(血栓)が肺動脈で詰まることが原因として起こります。
「静脈内の血液の流れが悪い」「静脈が傷ついている」 「血液が固まりやすい」、血栓ができる要因としては、主に3つが挙げられます。
静脈内の血液の流れが悪く、停滞している
入院中でベッド上に長期間安静にしていたり、手術後で麻酔で足が動かなくなったり、飛行機・車・新幹線に長時間同じ姿勢で座ったりすると、長時間足を動かさないために、足(太もも、ふくらはぎ)の静脈の血流が悪くなり、血栓が出来やすくなります。
血管が傷つく
足の骨折や手術などで静脈血管が障害を受けた場合や静脈血管の中に点滴や輸血の管を長期間入れた状態が続くと血栓が出来やすくなります。
血液が固まりやすい体質を持っている
アンチトロンビン欠乏症、プロテインC欠乏症、プロテインS欠乏症などは生まれつき血液を固める機能に障害がある方がいます。また、抗リン脂質抗体症候群、悪性腫瘍(癌)などの病気によって血液が固まりやすい状態となる場合もあります。

深部静脈血栓症の危険因子

  • 肥満
  • 糖尿病・高血圧・脂質異常症など生活習慣病の持病
  • 妊娠中・出産直後
  • 子宮筋腫・卵巣嚢腫など婦人科疾患の持病
  • 過去に深部静脈血栓症の既往
  • 飛行機・新幹線をよく利用する
  • 長時間のデスクワーク
  • 入院中
  • 足の手術
  • 災害時の車中泊・避難所生活
  • 脱水状態

肺塞栓症の検査・診断

血圧や血中の酸素飽和度を確認しながら、スクリーニング検査として、胸部X線検査・心電図・心エコー検査・血液検査を行います。
また、肺塞栓症が強く疑われるときは、緊急で胸部造影CT検査を行い、肺動脈の血栓を確認する必要があります。迅速な検査・診断を必要としますので、その場合は患者様にご相談の上、提携する医療機関をご紹介させていただきます。

下肢静脈エコー検査/心エコー検査

下肢静脈エコー検査で、下肢の静脈内の血栓の有無を調べます。血栓の部位や大きさなどを評価し、「深部静脈血栓症」の有無を確認します。 同時に、心エコー検査も実施し、心臓の負荷を調べます。血栓が肺に飛んで肺塞栓を起こすと、心臓に負担が生じるために、それをエコー検査で評価することができます。

採血(D-ダイマー)

D-ダイマーが高値の場合は血栓の存在の可能性が高いと言えます。

胸部造影CT検査

肺塞栓が強く疑われる場合は胸部造影CTで確定診断を付けます。血管内に造影剤を流して、肺動脈の血管内に血栓によるつまりが無いかを調べます。

肺塞栓症の治療

下記のいずれかの治療法が選ばれます。

抗凝固療法

抗凝固療法を使って、血液をサラサラにし、これ以上血栓を作らせない治療法を行います。血栓の大きさによっては急性期は点滴で治療をすることもありますが、安定したら内服薬での治療になります。

血栓溶解療法

詰まった血管が広範囲に渡り、ショック状態(血圧低下、意識低下)の方が適応となります。静脈注射にて積極的に血栓を溶かす治療法です。
この血栓を溶かす薬(血栓溶解薬)には、出血を起こしやすくするというデメリットがあるため、慎重な投与が必要となります。点滴や採血をした部位やから出血が起こったり、重い合併症では消化管出血、脳出血が起こります。慎重に検討したうえで治療を行います。

カテーテル治療

肺動脈内にできた血栓の近くまでカテーテルを進め、血栓を除去して血管を再開通させる治療法です。具体的にはカテーテル血栓溶解法、血栓吸引術、破砕術があります。カテーテル血栓溶解法は圧力をかけて直接薬剤を投与するため、点滴と比べて治療効果を向上させることが期待できます。
また、カテーテル血栓吸引術と破砕術は、肺動脈内の血栓を吸い取ったり、粉々に砕く治療法です。血栓を取り除くことが出来るため、劇的な改善が期待できます。

肺動脈血栓摘除術

血管内の血栓を外科手術で取り除く治療法です。血栓が取り除かれれば状態は劇的に改善します。

下大静脈フィルター

足の静脈にできた血の塊(血栓)がはがれて流れてきたときに、フィルターで血栓を捉え、肺塞栓症を起こさせないようにする予防的治療です。フィルターには、生涯体に入れたままの永久留置型と、留置後に取り出すことのできる非永久留置型があり、病状に合わせて使い分けられます。最近は長期留置による合併症の予防の観点から、取り出せる非永久留置タイプを用いることが多くなっています。

肺塞栓症の予防法

肺塞栓症は誰にでも起こり得る病気ですが、日常生活で少し心がけることでリスクを減らすことができます。すでに治療済みの方も再発のリスクがあるため、継続した予防は必要です。具体的な予防法をご紹介します。

適度に足を動かす

長時間同じ体勢で血流を停滞させないよう、時々、足を上下に動かして血行を促しましょう。飛行機などの乗り物に乗る際は、すぐに立って歩ける通路側の席に座ったり、定期的に休憩を取って足を伸ばしたりすることを心掛けましょう。

適度な水分補給

血液濃度を下げることで、血栓はできにくくなります。特に長時間乗り物に乗る場合には十分に水分を取って、血流の停滞を防ぎましょう。また、脱水を招くアルコール・コーヒーなどのカフェインは控えましょう。