仙腸関節炎 SACROILIITIS

  1. Home
  2. >
  3. 仙腸関節炎

仙腸関節炎(仙腸関節障害)とは

仙腸関節炎とは、骨盤を構成する骨である「仙骨(せんこつ)」と「腸骨(ちょうこつ)」を繋いでいる『仙腸関節』という部分に、微小なズレや炎症が生じることで、強い腰痛やお尻の痛みを引き起こす疾患です。

人間の身体の土台となる骨盤は、中央にある逆三角形の仙骨と、その両脇にあるゾウの耳のような形をした腸骨が組み合わさってできています。この仙骨と腸骨のつなぎ目が仙腸関節です。膝や肩の関節のように大きく動く関節ではなく、強力な靭帯によってガッチリと固定されており、動いてもわずか数ミリ(2〜3mm程度)という非常に遊びの少ない関節です。

しかし、このわずか数ミリの動きが、歩行時やジャンプ着地時などに上半身の重さと下半身からの衝撃を吸収する「高性能なサスペンション(免震装置)」として極めて重要な役割を果たしています。

日常生活の不意な動作や、不良姿勢の継続、あるいは出産などの影響で、この仙腸関節に過度な負荷がかかり、関節のわずかな機能障害や炎症が起きると、周囲の知覚神経が刺激され、非常に強い痛みを発します。これが仙腸関節炎のメカニズムです。一般的な腰痛(筋肉の疲労や椎間板の問題)とは痛みの発生源が異なるため、適切な診断とアプローチが必要不可欠となります。

症状

CONSULTATION

  • ピンポイントで指差せるお尻(骨盤)の痛み
  • 長く座っていると痛みが強くなる
  • 動き始めの鋭い痛み
  • 仰向けで寝られない
  • 寝返りを打つときの激痛
  • 片側だけの腰や足の痛み
  • 足の付け根(そけい部)の痛み
  • 歩行時の違和感や痛み

など

原因

不意な動作や片側への偏った負荷

段差につまずいた、何もないところで空振りして体勢を崩した、重い荷物を急に持ち上げた、ゴルフや野球で身体を鋭く捻ったなど、仙腸関節に予期せぬ強い負荷や非対称な力が加わった瞬間に発症(ぎっくり腰として現れることも)します。

妊娠・出産による靭帯の緩み

女性に非常に多い原因です。妊娠中から出産にかけて、「リラキシン」という女性ホルモンが分泌され、赤ちゃんが産道を通りやすくするために骨盤周りの靭帯が緩みます。このため仙腸関節が不安定になり、産前産後に強い腰痛を引き起こします。

日常的な不良姿勢

座る時にいつも同じ側の足を組む、立つ時に片足ばかりに体重をかける(休め姿勢)、カバンを常に同じ肩にかけるといった偏った生活習慣は、骨盤を歪ませ、片側の仙腸関節に持続的なダメージを与え続けます。

加齢による関節の変性

年齢とともに仙腸関節の軟骨がすり減ったり、周囲の靭帯が硬くなったりすることで、クッション機能が低下し、少しの負荷でも炎症を起こしやすくなります。

診断

「腰が痛い」と整形外科を受診し、レントゲンやMRI検査で「骨には異常ありません」「きれいな背骨です」と言われたにもかかわらず、痛みが一向に引かないという患者さまが多くいらっしゃいます。実は、仙腸関節の数ミリのズレや炎症は、画像検査ではほとんど捉えることができません。

まずは問診と触診を行い、痛みの部位が仙腸関節(上後腸骨棘)に一致しているかを確認します。続いて、仙腸関節に特有のストレスをかける徒手検査を実施します。

ニュートンテスト(Newton test)

うつ伏せに寝ていただき、医師が仙骨を上方から強く圧迫して仙腸関節に痛みが誘発されるかを確認します。

ゲンスレンテスト(Gaenslen test)

仰向けで片足を胸に抱え込み、もう片方の足をベッドから下ろして骨盤にねじれを加えることで痛みを誘発します。

パトリックテスト(Patrick test)

仰向けで痛む側の足を「4の字」に組み、膝を上から押し下げて骨盤の痛みをチェックします。

セルフチェック

ご自身の腰痛やお尻の痛みが、仙腸関節炎によるものかどうかを見極める、非常に簡単で有名なセルフチェック「ワンフィンガーテスト(一本指テスト)」をご紹介します。

【ワンフィンガーテストのやり方】

①立った状態、または座った状態で、一番痛みを感じる部分を探します。
②その「一番痛い場所」を、人差し指1本でピンポイントに指差してみてください。

【判定】‌

もしあなたが指差した場所が、背骨の真ん中ではなく、「お尻の割れ目の始まりから、左右どちらかに指2〜3本分ほど外側にずれた、骨の出っ張りがあるあたり(上後腸骨棘)」であった場合、仙腸関節炎の可能性が極めて高いと言えます。筋肉の痛みであれば手のひら全体で痛みを表現することが多いですが、関節の痛みは「ここ!」と一点を指差せるのが特徴です。

治療

仙腸関節ブロック注射

仙腸関節炎の治療において、最も直接的で即効性が高いのがブロック注射です。これにより、炎症が強力に抑えられ、劇的に痛みが改善する患者さまが多くいらっしゃいます。

骨盤ベルト(仙腸関節ベルト)の着用

不安定になった仙腸関節を物理的に固定し、休ませるために、専用の骨盤ベルトを使用します。腰の上部ではなく、骨盤(お尻の横の骨の出っ張りである大転子を通るライン)をしっかり締めることで関節のグラつきを抑え、歩行時や立ち上がり時の痛みを大幅に軽減します。

薬物療法

痛みが強い急性期には、非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)の飲み薬や湿布を処方し、痛みの悪循環を断ち切ります。

リハビリ

関節モビライゼーション(徒手療法)

仙腸関節がロックして動きが悪くなっている場合、理学療法士が「人の手」による施術にて、骨盤に微細な動き(関節の遊び)を取り戻すための調整を行います。これにより、サスペンションとしての機能が復活します。

インナーマッスルの強化(体幹トレーニング)

仙腸関節を自身の筋肉で安定させるため、「腹横筋」や「骨盤底筋群」などの体幹のインナーマッスルを鍛えるトレーニングを指導します。

柔軟性の改善と姿勢指導‌

お尻の筋肉(大殿筋)や太ももの裏側(ハムストリングス)が硬いと骨盤の動きを妨げるため、丁寧なストレッチを行います。また、足を組まない、片足休めをしないなど、日常生活での正しい姿勢や身体の使い方を徹底的に指導します。

セルフケア・予防

座り方の見直し‌

椅子に座る際は、深く腰掛け、骨盤を立てて(背筋を伸ばして)座るように意識してください。柔らかすぎるソファや、床での横座り(お姉さん座り)、あぐらは骨盤を歪ませる大きな原因となるため極力避けましょう。

骨盤ベルトの賢い利用

重いものを持ち上げる作業が続く日や、長時間歩く予定がある時などは、予防的に骨盤ベルトを巻いておくと安心です。ただし、寝る時や安静時はベルトを外し、筋肉が衰えないようにメリハリをつけて使用してください。

適度な運動とストレッチ

ウォーキングなどで骨盤周りの血流を良く保つことが大切です。また、仰向けに寝て両膝を立て、お尻をゆっくり持ち上げる「ヒップリフト」などの簡単な体操を毎日続けることで、骨盤を支える筋肉を維持できます。

Q&A

Q

一般的な「ぎっくり腰」との違いは何ですか?‌

A

「ぎっくり腰」は急激な腰痛の総称であり、医学用語としての正式な病名ではありません。実は「仙腸関節のズレや捻挫」が原因であるぎっくり腰も存在します。筋肉の問題であれば腰全体が痛みますが、仙腸関節が原因の場合は、お尻のえくぼ周辺にピンポイントで激しい痛みが出ることが特徴です。

Q

整形外科でレントゲンを撮り「異常なし」と言われましたが、仙腸関節炎の可能性はありますか?

A

その可能性は十分にあります。仙腸関節のズレはわずか数ミリであるため、レントゲンやMRIなどの画像検査には写らないことがほとんどです。

Q

産後の骨盤の痛みがずっと続いているのも、これが原因でしょうか?‌

A

はい、産後の腰痛・お尻の痛みの多くは仙腸関節炎(仙腸関節障害)が原因と考えられます。妊娠・出産に伴うホルモンの影響で緩んだ骨盤の靭帯が、育児の負担(抱っこや授乳姿勢など)により回復しきれず、関節が不安定なまま炎症を起こしている状態です。骨盤ベルトの着用や適切なリハビリが非常に効果的です。

Q

骨盤ベルト(コルセット)は、一般的な腰痛用のものと同じで良いですか?

A

仙腸関節炎の治療には、幅の広い腰痛コルセットよりも、細めで骨盤だけをピンポイントで締めることができる「骨盤ベルト(仙腸関節ベルト)」の方が適しています。巻く位置も腰ではなく、足の付け根の少し上(大転子)あたりになります。

Q

仙腸関節炎の治療で手術になることはありますか?

A

極めて稀ですが、存在します。数ヶ月以上にわたり、ブロック注射やリハビリなどの保存的治療を徹底して行っても耐えがたい激痛が続き、日常生活が全く送れないような重症例に限り、仙腸関節を金具で固定する手術(仙腸関節固定術)が検討されることがあります。しかし、大部分の患者さまは保存的治療で改善に向かいますのでご安心ください。