斜頸とは
斜頸(しゃけい)とは、文字通り「首(頸)が斜めに傾いている状態」を指す医学用語です。何らかの原因によって首の周囲の筋肉や骨、神経に異常が生じ、頭が左右のどちらかに傾き、あごが反対側を向いたまま、真っ直ぐな姿勢を保てなくなってしまいます。
斜頸は、発症する年齢や原因によって、主に以下の4つのタイプに分類されます。

①筋性斜頸(きんせいしゃけい)
生後すぐ〜乳児期に最も多く見られます。首の横を走る大きな筋肉(胸鎖乳突筋:きょうさにゅうとつきん)の一部が硬く縮んでしまうことが原因です。
②炎症性斜頸(環軸関節回旋位固定など)
幼児から学童期の子供に多く見られます。風邪などの喉の炎症が引き金となり、首の骨の関節(第一頸椎と第二頸椎)がズレて引っかかってしまう状態です。
③骨性斜頸(こつせいしゃけい)
生まれつき首の骨(頸椎)の形に異常がある、または骨の数が少ないこと(奇形)で首が傾く稀なケースです。
④痙性斜頸(けいせいしゃけい)
大人に多く見られます。脳や神経の伝達異常、極度のストレスなどにより、首の筋肉が自分の意思とは無関係に収縮し(痙攣して)、首が勝手に引っ張られてしまう状態です。
症状
斜頸の症状は、患者さまの年齢(タイプ)によって全く異なります。以下の3つのパターンのうち、どれに当てはまるかをご確認ください。
【赤ちゃん】首のしこりと「向き癖」(筋性斜頸)
生後2〜3週間頃の赤ちゃんに多く見られます。
・いつも同じ方向ばかり向いて寝ている。
・首の横に、親指の先くらいの「コリコリとした硬いしこり」がある。
・無理に反対側を向かせようとすると、首が突っ張って嫌がる。
・いつも同じ方向を下にするため、頭や顔の形が左右非対称になってくる。
【子供】突然の「首の傾き」と「激痛」(環軸関節回旋位固定など)
幼児〜小学生の子供に多く見られます。
・朝起きたら突然、首が傾いたまま動かせなくなった。
・風邪や中耳炎の後、または「でんぐり返し」などの後に急に発症した。
・首を真っ直ぐにしようとすると激しく痛がる。
・痛みを和らげるため、両手で自分の頭を支えるような仕草をする。
【大人】首の「引きつり」と「慢性的な痛み」(痙性斜頸など)
大人になってから発症します。
・自分の意思とは関係なく、首が勝手に特定の方向へ引っ張られたり、痙攣したりする。
・首の筋肉が常に異常に緊張しているため、激しい肩こりや慢性的な痛みがある。
・あごや頭の一部に軽く触れると、不思議と一時的に首の傾きが和らぐことがある(感覚トリック)。
原因
筋性斜頸の原因:筋肉の線維化(硬くなること)
耳の下から鎖骨に向かって斜めに伸びている「胸鎖乳突筋」という筋肉が原因です。お母さんのお腹の中にいる時の赤ちゃんの姿勢や、出産時に産道を通過する際の筋肉への物理的なストレスなどが影響し、この筋肉の一部が傷ついて硬い線維組織(しこり)に置き換わってしまうことで、筋肉が縮んで首が引っ張られてしまいます。
炎症性斜頸(環軸関節回旋位固定)の原因
第一頸椎(環椎)と第二頸椎(軸椎)の関節は、首を左右に回すために非常に複雑で、ある程度の緩みを持った構造をしています。子供の場合、風邪や扁桃炎などで喉の奥に強い炎症が起きると、その炎症がすぐ後ろにある首の関節にまで波及し、関節を包む組織が腫れてさらに緩んでしまいます。その緩んだ状態で寝返りなどで首を回すと、関節がズレた位置で引っかかって動かなくなり、首が真っ直ぐに戻らなくなってしまいます。
痙性斜頸の原因
大人の痙性斜頸の原因は、首の筋肉そのものではなく、運動をコントロールする「脳(大脳基底核など)」の機能的な異常にあると考えられています。神経伝達物質のバランスの乱れや、長期間の極度な精神的ストレス、あるいは特定の薬の副作用などが引き金となり、首の筋肉に対して「縮みなさい」という誤った命令が絶え間なく出続けてしまうことで発症します。
診断
斜頸の診断において最も重要なのは、「放置しても自然に治るタイプなのか」「今すぐ治療が必要な危険なタイプ(骨の異常や神経の異常)なのか」を正確に鑑別することです。
レントゲン(X線)検査
幼児や子供の「急な首の傾き(環軸関節回旋位固定)」や「骨性斜頸」が疑われる場合は、レントゲン検査を行います。特に子供の場合は、口を大きく開けた状態で首の骨を正面から撮影し、第一頸椎と第二頸椎の関節がどのようにズレているかを正確に評価します。
CT・MRI検査
レントゲンでは判断が難しい複雑な骨のズレや、大人の痙性斜頸で脳や脊髄の神経に病変が隠れていないかを調べる必要がある場合は、CT検査やMRI検査が必要となります。CT検査やMRI検査がが必要と判断した場合は、高度医療機関へ責任を持って速やかにご紹介いたします。
セルフチェック
「首が曲がっている気がする」という時、ご自宅で確認できる斜頸のセルフチェックリストです。
【赤ちゃん(乳児)の場合】
☑️ いつも同じ方向ばかり向いて寝ている(向き癖が強い)。
☑️ 抱っこをしている時、首が左右のどちらかに傾いている。
☑️ 首の横側の筋肉をつまむように触ると、硬い「しこり」がある。
☑️ 反対側を向かせようとすると、首が突っ張って嫌がったり泣いたりする。
☑️ 後頭部の形が、左右で明らかに非対称になってきた(斜頭症)。
【幼児・子供・大人の場合】
☑️ 朝起きたら突然首が傾いていて、真っ直ぐにできない。
☑️ 数日〜1週間前に、風邪で高熱を出したり、喉が痛くなったりした。
☑️ 首を動かそうとすると激痛が走り、両手で頭を支えようとする。
☑️ (大人の場合)首の筋肉がピクピク痙攣したり、勝手に引っ張られたりする感覚がある。
治療
乳児の筋性斜頸
原則として自然治癒を待ちます。赤ちゃんの筋性斜頸の約90%は、生後1歳から1歳半になるまでに、筋肉のしこりが自然に吸収されて消え、首の傾きも完全に治ります。そのため、特別な治療は行わず、定期的な診察で成長を見守る「経過観察」が最大の治療となります。ただし、1歳半を過ぎても首の強い傾きが残り、顔の変形などが顕著なごく一部のケースにおいては、筋肉を伸ばす手術(胸鎖乳突筋切離術など)が必要になる場合があります。その際は、小児整形外科の専門病院へご紹介いたします。
子供の環軸関節回旋位固定
首を固定する柔らかいコルセット(頸椎カラー)を装着し、鎮痛薬を飲みながら数日間〜1週間ほど安静に過ごすことで、自然に元に戻ります。しかし、発症から時間が経ちすぎて関節が完全に固まってしまっている重症例では、入院して頭を専用の器具で引っ張る「牽引(けんいん)治療」が必要になることがあります。
大人の痙性斜頸
まずは、筋肉の異常な緊張を和らげる飲み薬(筋弛緩薬など)を処方し、症状の緩和を図ります。しかし痙性斜頸は難治性であることが多く、飲み薬で改善しない場合は、異常に収縮している筋肉に直接注射をして麻痺させる「ボツリヌス療法(ボトックス注射)」が第一選択となります。
リハビリ
赤ちゃんへの無理なマッサージやストレッチ
乳児の筋性斜頸に対して、お母さんやお父さんが硬いしこりを指で強く揉みほぐそうとしたり、傾いた首を力任せに反対側へ引っ張るストレッチをしたりすることは絶対にやめてください。筋肉の線維が断裂して内出血を起こし、かえってしこりが硬くなったり、斜頸が治りにくくなったり、悪化することがあります。
環境調整による自然な誘導
赤ちゃんのリハビリは、無理に触るのではなく「環境」を変えることが基本です。ベビーベッドの向きを変えたり、メリー(回転するおもちゃ)を赤ちゃんが向きにくい方向(傾いているのと反対側)に置いたり、お母さんが反対側から声をかけたりすることで、赤ちゃん自身が「自発的に」首を回して筋肉を伸ばすように優しく誘導します。
大人の斜頸に対する理学療法
大人の筋緊張性・炎症性の斜頸では、長期間の不自然な姿勢によって首から肩、背中にかけての筋肉が固まり、激しい肩こりや頭痛といった二次的な痛みを引き起こしていることが非常に多く見られます。
そのため、リハビリテーションでは、いきなり首を動かしたり引っ張ったりするようなことはいたしません。まずは理学療法士が、心地よいマッサージ的な「徒手療法(手技)」を用いて丁寧にアプローチします。首の土台となっている肩甲骨周りや背中の過度な筋肉の緊張を優しく揉みほぐし、血流をしっかりと改善させることで、まずは患者さまの辛い痛みや筋緊張、こわばりを和らげます。
筋肉の柔軟性が少しずつ戻ってきて痛みが落ち着いた段階で、首への負担を減らす正しい姿勢(アライメント)を取り戻すための無理のないストレッチや、ご自宅でもできる運動療法をサポートいたします。お仕事をされている方でも焦らず継続して治療に取り組めるよう、リハビリを実施していきます。
セルフケア・予防
斜頸を完全に予防することは難しい場合もありますが、日頃のちょっとした工夫で、症状の悪化を防いだり、回復を早めたりすることができます。
赤ちゃんのための「タミータイム(うつ伏せ遊び)」
起きている時間帯で機嫌が良い時に、親御様の目がしっかりと届く環境において、1日数分などの短時間から「うつ伏せ遊び(タミータイム)」を取り入れてみてください(生後1ヶ月頃から開始できます)。うつ伏せの姿勢から自分で頭を持ち上げようとする動作は、首や背中の筋肉をバランスよく鍛え、筋性斜頸による向き癖や、頭の変形(斜頭症)を予防・改善する大きな効果が期待できます。 (※窒息を防ぐため、必ず大人がそばで見守り、そのまま寝てしまった場合や夜間に寝かせる時は、絶対に仰向けに戻してください)。
子供の「風邪」と「首の痛み」の関連性に注意する
お子様が風邪や扁桃炎、中耳炎などにかかった後、「首が痛い」と言い出したり、首が少し傾いていたりする様子が見られたら、「ただの寝違えだろう」と放置せず、環軸関節回旋位固定を疑うことが大切です。
大人の姿勢改善とストレス管理
大人の斜頸(特に痙性斜頸や慢性的な寝違え)は、長時間のデスクワークやスマートフォンの使用による「ストレートネック」や悪姿勢、そして精神的ストレスが症状を増悪させます。画面を見る時は目線を上げ、1時間に1回は立ち上がって肩甲骨を回すなど、首に負担をかけない姿勢づくりと、心身のリフレッシュを心がけてください。
Q&A
赤ちゃんの首のしこりは、本当に自然に消えるのでしょうか?とても心配です。
親御様がご不安になるお気持ち、痛いほどよく分かります。しかし、乳児の筋性斜頸による胸鎖乳突筋のしこりは、約90%以上の赤ちゃんにおいて、1歳から1歳半頃までに自然に吸収されてなくなり、首の傾きも正常に戻ります。
子供が風邪を引いた後から首が曲がって激痛を訴えています。温めたり揉んだりしてもいいですか?
絶対に温めたり揉んだりしないでください。風邪の後に起こる小児の急な首の傾きは「環軸関節回旋位固定」である可能性が極めて高いです。この急性期に揉んで動かそうとしたり、お風呂で温めたりすると、炎症が悪化し、さらに酷くなってしまいます。まずは患部を無理に動かさず、整形外科を受診してください。正しい固定と安静が最も重要です。
大人の痙性斜頸は完全に治療することができますか?
大人の痙性斜頸は、脳や神経の伝達システムが関与する非常に専門的で複雑な疾患です。まつもと整形外科では、レントゲン等の検査で首の骨の異常(頸椎椎間板ヘルニアなど)がないかを除外診断し、飲み薬などで初期の痛みをコントロールすることは可能です。しかし、筋肉に直接注射をする「ボツリヌス療法」などの専門治療が必要となるケースでは、神経内科やペインクリニック等の医療機関へご紹介させていただきます。
監修
経歴
- 済生会福岡総合病院
- 製鉄記念八幡病院
- 福岡市民病院
- 九州大学病院
- 九州医療センター
- 福岡赤十字病院
- 済生会八幡総合病院
- 福岡青洲会病院
資格・所属学会
- 日本整形外科学会 専門医(日本専門医機構)
- 日本整形外科学会認定 運動器リハビリテーション医
- 日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医
- 日本フットケア学会認定 フットケア指導士
- 身体障害者福祉法第15条指定医師(肢体不自由)
- 難病指定医
- 日本整形外科学会
- 日本フットケア・足病医学会















