胸郭出口症候群 THORACIC-OUTLET-SYNDROME

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胸郭出口症候群(きょうかくでぐちしょうこうぐん)とは

胸郭出口症候群とは、首から肩、そして腕へと向かう神経の束(腕神経叢:わんしんけいそう)や、太い血管(鎖骨下動脈・鎖骨下静脈)が、首の付け根から脇の下にかけての狭い通り道(胸郭出口)で圧迫されたり、引っ張られたりすることで、腕や手に痛み、しびれ、血行不良などが生じる疾患の総称です。
心臓から腕に向かう血管と、脳から腕に向かう感覚や運動を司る神経は、首から胸の上部を抜けて腕へと向かいます。このルート上には、骨や筋肉によって構成される「3つの狭いトンネル」が存在します。

斜角筋隙(しゃかくきんげき)
首の前側にある前斜角筋と中斜角筋という筋肉の間の隙間です。
肋鎖間隙(ろくさかんげき)
鎖骨と、一番上の肋骨(第1肋骨)の間の隙間です。
小胸筋下間隙(しょうきょうきんかかんげき)
胸の奥にある小胸筋という筋肉と、烏口突起(うこうとっき)の間の隙間です。

これらのトンネルのいずれか、あるいは複数で神経や血管が絞扼(締め付けられること)されると症状が現れます。圧迫される部位によって「斜角筋症候群」「肋鎖症候群」「小胸筋症候群(過外転症候群)」と細かく分類されることもありますが、これらを総称して胸郭出口症候群と呼びます。

症状

CONSULTATION

  • 腕から手、指先にかけてのしびれ・ピリピリ感
  • 首から肩、肩甲骨周辺の強い重だるさと痛み
  • 腕を高く挙げた時の痛みや脱力感
  • 手や指先の冷え・血色の悪さ
  • 握力の低下・手指の動かしにくさ
  • 頭痛、吐き気、めまい、耳鳴り
  • 就寝中や明け方に悪化する痛み
  • パソコンやスマートフォン操作中の腕の疲労感

など

原因

なで肩の体型の女性に多い

首が長く、肩が下がっている「なで肩」の体型の方は、鎖骨の位置が低くなります。すると、首から腕へと伸びる神経が下方に強く引っ張られた状態になりやすいため、20代〜30代の女性に胸郭出口症候群が非常に多く見られます。

筋肉質で首が短い体型の男性に多い

逆に、筋肉労働をされる方やウエイトトレーニングを熱心に行う男性の場合、首回りや胸の筋肉(斜角筋や小胸筋)が発達しすぎて太くなり、神経や血管の通り道を物理的に狭めて圧迫してしまうケースがあります。

不良姿勢(猫背・巻き肩)‌

デスクワークやスマートフォンの長時間使用により、背中が丸まり、肩が内側に入り込む「巻き肩」の姿勢が定着すると、鎖骨と肋骨の隙間が狭くなったり、小胸筋が過度に緊張したりして、神経を圧迫する大きな要因となります。

日常的な身体への負担‌

重いリュックサックを毎日背負う学生や、重い荷物を持ち運ぶ職業の方、または頭の上で腕を動かすことの多い職業(美容師、塗装業など)やスポーツ(野球、バドミントン、水泳など)は、鎖骨周辺に持続的な負担をかけるため発症リスクが高まります。

診断

「腕がしびれる」「肩が痛い」という症状は、頸椎椎間板(けいついついかんばん)ヘルニアなど、首の骨や神経の病気でも頻繁に見られます。

まずは問診を行い、どのような動作で症状が出るのか、職業やスポーツ歴などを詳細に確認します。その後、胸郭出口症候群に特有の以下のような徒手検査(誘発テスト)を実施します。

ルーステスト(Roos test)

両腕を肩の高さまで挙げ、肘を90度に曲げた状態で、手のひらをグーパーと3分間開閉し続けます。しびれやだるさで続けられなくなれば陽性と判断します。

モーリーテスト(Morley test)

鎖骨の上にあるくぼみ(斜角筋が通る部分)を指で圧迫し、腕に痛みやしびれが走るかを確認します。

アドソンテスト(Adson test)

首を症状がある方へ振り、上を向いた状態で深呼吸をして息を止めます。この時、手首の脈(橈骨動脈)が弱くなる、または触れなくなれば陽性です。

これらのテストに加え、レントゲン(X線)検査を行い、鎖骨や肋骨の異常、あるいは稀に見られる「頸肋(けいろく:本来はないはずの余分な肋骨)」の有無を確認します。さらに、頸椎椎間板ヘルニアなど首の病気(頸椎疾患)を除外するために、必要に応じてMRI検査を実施し、総合的に確定診断を下します。

セルフチェック

ご自宅で簡単にできる胸郭出口症候群のセルフチェック方法として、上記の「ルーステスト」の簡易版をご紹介します。 背筋を伸ばして立ち、あるいは椅子に座ります。

両腕を横に広げて肩の高さまで挙げ、肘を直角(90度)に曲げます。(両手を挙げて「降参」するようなポーズです)。
その姿勢のまま、両手の指を「開いて、握って」のグーパー運動を少し早めのペースで繰り返します。

【判定基準】

これを3分間続けてみてください。もし、途中で腕や手にピリピリとしたしびれが出たり、腕全体がだるくて重くなり、どうしても腕を下ろしてしまったりする場合は、胸郭出口症候群の可能性が高いと言えます。無理は禁物ですので、痛みが出たらすぐに中止してください。

治療

薬物療法(お薬による治療)

痛みや炎症が強い場合は、非ステロイド性消炎鎮痛薬(内服薬や湿布)を処方します。また、神経の圧迫によるしびれに対しては、末梢神経の修復を助けるビタミンB12製剤や、筋肉の過度な緊張を和らげる筋弛緩薬、神経障害性疼痛薬などを併用して症状を抑えます。

物理療法‌

患部を温めて血流を改善する温熱療法や、低周波治療器を用いて筋肉の緊張をほぐし、痛みを緩和させる物理療法を行います。

手術療法(非常に稀)

数ヶ月間、保存的療法やリハビリを尽くしても激しい痛みやしびれが取れない場合や、手の筋肉が極端に萎縮してきている(痩せてきている)ような極めて重症なケースに限り、原因となっている筋肉や第1肋骨を切除する手術が検討されます(その場合は、連携する適切な高次医療機関をご紹介いたします)。

リハビリ

姿勢の改善指導‌

胸郭出口症候群の最大の敵である「猫背」や「巻き肩」を矯正します。骨盤の位置から背骨のカーブ、肩甲骨のポジションまで、全身のアライメント(配列)をチェックし、正しい姿勢を身体に覚え込ませる指導を行います。

ストレッチング

硬くなって神経や血管を圧迫している原因の筋肉(前斜角筋、中斜角筋、小胸筋など)をターゲットに、専門スタッフが徒手療法で的確にストレッチを行い、筋肉の柔軟性を取り戻して狭いトンネルを広げます。

筋力トレーニング

なで肩を改善し、下がった鎖骨を引き上げるために、肩甲骨周りの筋肉(僧帽筋上部線維や肩甲挙筋など)の筋力強化を行います。正しいフォームで筋肉をつけることで、神経が引っ張られるストレスを軽減します。

セルフケア・予防

重い荷物の持ち方を工夫する‌

重いリュックサックや、片側だけに掛けるショルダーバッグは鎖骨を下に押し下げ、神経を圧迫します。荷物はなるべく軽くし、やむを得ない場合はリュックの胸のストラップ(チェストベルト)を締めて重さを分散させたり、手提げカバンを左右交互に持ち替えたりする工夫が必要です。

腕を高く挙げる動作を控える

長時間の吊り革の使用や、高い場所での作業など、腕を肩より上に挙げ続ける動作は症状を悪化させるため、可能な限り避けるか、こまめに腕を下ろして休ませるようにしてください。

入浴でしっかり身体を温める

シャワーだけで済ませず、湯船に浸かって首から肩、全身をしっかりと温めることで、筋肉の緊張がほぐれ、圧迫されていた血流が改善しやすくなります。

こまめな休息とストレッチ‌

デスクワーク中やスマホ操作中は、1時間に1回は立ち上がり、胸を開くストレッチや肩回しを行って、巻き肩の姿勢が長時間続かないようにリセットする習慣をつけましょう。

Q&A

Q

頸椎椎間板ヘルニアとはどう違うのですか?‌

A

どちらも「首の痛み」や「腕のしびれ」が出ますが、原因となる場所が異なります。頸椎椎間板ヘルニアは「首の部分(頸椎)」で神経が圧迫される病気です。一方、胸郭出口症候群は、頸椎を出た後の神経が「鎖骨や脇の下周辺」で圧迫される病気です。

Q

胸郭出口症候群になりやすい職業はありますか?‌

A

はい、傾向があります。デスクワークで長時間パソコン作業をする方(巻き肩になりやすい)、美容師、塗装業、黒板に字を書く教師など、腕を挙げた状態を維持する職業の方に多く発症します。また、重い荷物を日常的に持ち運ぶ職業の方も注意が必要です。

Q

治療を始めれば、すぐにしびれや痛みは取れますか?‌

A

個人差がありますが、神経の圧迫や損傷が長期間に及んでいる場合は、症状が改善するまでに数ヶ月単位の時間がかかることも珍しくありません。焦らずに、お薬による治療と並行して、リハビリで正しい姿勢や筋肉の柔軟性を獲得していくことが完治への最短ルートとなります。

Q

筋トレをして肩回りの筋肉を鍛えれば治りますか?‌

A

自己判断での過度な筋力トレーニングは危険です。例えば、胸の筋肉(大胸筋)ばかりを鍛えると、さらに巻き肩が強くなり症状が悪化することがあります。鍛えるべき筋肉と、緩めるべき(ストレッチするべき)筋肉を見極める必要があるため、まずはまつもと整形外科を受診し、リハビリにて理学療法士の指導を受けてから行うようにしてください。

Q

しびれを我慢して放置しているとどうなりますか?

A

痛みを我慢して放置すると、神経へのダメージが蓄積し、やがて手の筋肉が萎縮して(痩せ細って)しまい、握力が極端に落ちたり、手の指が思うように動かせなくなったりする後遺症が残るリスクがあります。筋肉が痩せてしまう前の早期発見・早期治療が非常に重要です。