変形性肩関節症とは

変形性肩関節症とは、長年の使用や加齢によって、肩の関節の「軟骨」がすり減り、骨が変形して強い痛みを引き起こす病気です。
人間の肩は、丸い腕の骨が、肩甲骨の浅いお皿にハマるような作りになっています。この骨と骨が直接ぶつからないように、間には滑らかな「軟骨」があり、クッションの役割を果たしてくれています。
しかし、長年肩に負担がかかり続けると、この大切なクッションが少しずつすり減ってしまいます。すると、骨同士が直接ゴリゴリとこすれ合うようになり、その刺激で関節に「骨棘(こつきょく)」というトゲのような骨ができたり、慢性的な炎症が起きたりして、動かすたびに激しい痛みが出るようになるのです。 クッションがすり減る病気というと「膝関節」や「股関節」の変形がよく知られていますが、実は肩の関節にも同じような変形が起こります。
よく似た症状の「五十肩」は、関節の周りが炎症を起こしている状態なので、数年経てば自然に痛みが和らぐことがほとんどです。 しかし、変形性肩関節症は「軟骨のすり減り」や「骨の変形」そのものが原因です。一度すり減ったクッションや変形した骨は、そのまま放置していても自然に元に戻ることはありません。適切な診断と治療が不可欠な疾患です。
症状
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肩を動かすと「ゴリゴリ」と音が鳴り、痛む
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腕が上がらない、手が後ろに回せない
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夜寝ている時や、寝返りを打つと肩が痛む(夜間痛)
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「五十肩」だと思っていた痛みが、長期間治らない
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肩の痛みをかばっているうちに、首や背中まで痛くなってきた
など
原因
変形性肩関節症を引き起こす原因は、大きく「一次性」と「二次性」の2つに分けられます。膝や股関節に比べると、肩は体重がかからない関節であるため、加齢だけで変形することは比較的少ないと言われていますが、様々な要因が複雑に絡み合って発症します。
一次性(加齢や長年の酷使によるもの)
明確なケガや病気がないにもかかわらず、加齢に伴う軟骨の老化によって起こります。また、長年にわたり重い物を持ち上げる職業(大工、農業、漁業、介護職など)や、肩を酷使するスポーツ(野球、テニス、水泳など)を続けてきた方は、関節への負担が蓄積しやすく、発症リスクが高まります。
二次性(ケガや他の疾患が引き金となるもの)
過去の脱臼や骨折などの外傷によって関節の噛み合わせが悪くなり、数十年後に変形が進行するケースです。
腱板断裂性関節症(けんばんだんれつせいかんせつしょう)
ご高齢の方の変形性肩関節症で非常に多いのがこのパターンです。肩を支えるインナーマッスル(腱板)が切れたまま長期間放置されると、腕の骨(上腕骨)を正しい位置に抑えつける力がなくなり、骨が上へとズレて肩峰(肩の上の骨)と直接ぶつかるようになります。これにより、軟骨が破壊されて変形を引き起こします。
診断
詳細な問診と視診・触診
「いつから痛いのか」「どのような動作で痛みが強くなるか」「ゴリゴリという音はするか」などを詳しく伺います。また、腕がどの程度まで上がるか(可動域の確認)、無理に動かした時に痛む場所はどこかを探ります。
X線(レントゲン)検査
変形性肩関節症の診断において最も基本かつ重要な検査です。レントゲンを撮ることで、「骨と骨の間の隙間(関節裂隙)が狭くなっていないか(=軟骨がすり減っている証拠)」「関節の周囲に骨棘(骨のトゲ)が形成されていないか」「骨が変形して白く硬くなっていないか(骨硬化)」を明確に確認することができます。
超音波(エコー)検査
レントゲンでは写らない「腱板(インナーマッスル)が切れていないか」「関節の中に水が溜まっていないか」「関節を包む滑膜に強い炎症が起きていないか」を被ばくなくリアルタイムに確認することができます。
MRI検査(必要に応じて)
変形の程度が強く、腱板断裂の合併が疑われる場合や、手術を視野に入れたより詳細な評価が必要な場合には、MRI検査を行います。MRI検査が必要な場合は、提携する総合病院などの専門医療機関へスムーズにご紹介いたします。
セルフチェック
ご自身の肩の痛みが、単なる肩こりや五十肩ではなく、変形性肩関節症の疑いがあるかどうか、ご自宅で確認できる簡単なセルフチェックリストです。
☑️ 肩を回したり腕を上げたりすると、肩の奥の方で「ゴリゴリ」と音が鳴る。
☑️ 痛みが半年以上、あるいは1年以上続いており、少しずつ悪化している気がする。
☑️ 痛い方の手で、反対側の肩に触れること(腕を胸の前で交差させること)ができない。
☑️ 夜、寝ていると肩がズキズキと痛み、痛い方を下にして寝ることができない。
☑️ 過去に、肩を強く打撲した、脱臼した、あるいは肩の腱が切れていると言われたことがある。
治療
変形性肩関節症の治療は、軟骨のすり減り具合(進行度)や痛みの強さ、患者さまの生活背景に合わせて、まずは手術を行わない「保存的加療」から開始するのが原則です。
薬物療法(飲み薬・湿布)
痛みが強い急性期や、慢性的な鈍痛が続く場合には、非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs:ロキソニンやボルタレンなど)の飲み薬や湿布、塗り薬を処方し、関節内の激しい炎症を鎮めます。
注射療法(ヒアルロン酸注射・ステロイド注射)
「ヒアルロン酸注射」は、すり減った軟骨の代わりに潤滑油の役割を果たし、関節の動きを滑らかにして痛みを和らげます。定期的に投与することで、症状の進行を遅らせる効果が期待できます。また、夜も眠れないほどの激痛(夜間痛)がある場合には、炎症を強力に抑える「ステロイド注射(関節内注射)」を行い、まずは痛みの悪循環を断ち切ります。
温熱療法などの物理療法
痛みが少し落ち着いてきた段階で、マイクロ波などの温熱治療器を用いて肩の深部を温め、血流を改善します。血行が良くなることで、こわばった筋肉の緊張がほぐれ、痛みが緩和されます。
手術療法(人工肩関節置換術など)
保存的加療(お薬、注射、リハビリ)を半年以上続けても痛みが改善せず、夜も眠れない、腕が全く上がらず日常生活に重大な支障が出ているという重症例に対しては、人工関節に置き換える「人工肩関節置換術」などの手術が検討されます。手術が必要と判断した場合は、肩関節外科を専門とする連携病院へ責任を持ってご紹介いたします。
リハビリ
関節可動域訓練とストレッチ
硬くなってしまった関節包(関節の袋)や周囲の筋肉を、理学療法士が適切な力加減で優しくほぐし柔軟性を出し、関節の動く範囲(可動域)を少しずつ広げていきます。決して無理矢理痛いところまで引っ張るようなことはしません。
肩甲骨の動きの改善
肩の関節(肩甲上腕関節)が動かなくなっている分、土台となる「肩甲骨」の動きを良くすることが極めて重要です。肩甲骨が背中の上でスムーズにスライドするように、背中や首周りの筋肉の柔軟性を高めます。
腱板(インナーマッスル)の強化
痛みのない範囲で、肩関節を安定させる役割を持つインナーマッスル(腱板)のトレーニングを行います。関節のブレをなくすことで、骨同士の衝突を防ぎ、痛みを軽減させます。まつもと整形外科の理学療法士が、ご自宅でも安全にできるゴムバンドなどを使った体操をご指導いたします。
セルフケア・予防
肩の痛みを悪化させず、少しでも長くご自身の関節を長持ちさせるためには、日々の生活習慣の見直しとセルフケアが不可欠です。
肩を冷やさない(保温に努める)
関節や筋肉が冷えると、血行が悪くなり組織が硬くなって痛みが強くなります。夏場のエアコンの冷風が直接肩に当たらないように羽織るものを準備し、冬場は肩までしっかりと湯船に浸かって温める習慣をつけましょう。
痛みを伴う無理な動作を避ける
重い荷物を片手で急に持ち上げる、高い棚の上のものを無理に取ろうとするなど、肩に負担のかかる動作は極力避けてください。踏み台を使ったり、両手で持ったりする工夫が必要です。
正しい姿勢(猫背の解消)を意識する
背中が丸まった「猫背」の姿勢になると、肩甲骨が前に倒れ込み、腕を上げる時に肩の骨がぶつかりやすくなります。日頃から胸を張り、背筋を伸ばした正しい姿勢を意識することが、肩関節の保護につながります。
適度な運動(振り子運動など)
痛みが強すぎる時は安静が必要ですが、全く動かさないと関節はどんどん固まってしまいます。痛みの出ない範囲で、前かがみになって腕をだらんと下げ、重力に任せてブラブラと揺らす「振り子体操(コッドマン体操)」などが、関節の動きを保つために有効です。
Q&A
五十肩(肩関節周囲炎)と変形性肩関節症の違いは何ですか?
五十肩は、主に関節を包む袋(関節包)が炎症を起こして硬くなる病気で、軟骨や骨そのものには異常がありません。そのため、時間はかかりますが自然に痛みが和らぐことが多いです。一方、変形性肩関節症は、長年の負担によって軟骨がすり減り、骨が変形してしまう病気です。放置しても自然に骨の変形が治ることはなく、少しずつ進行していくのが大きな違いです。
肩を回すとゴリゴリと音が鳴るのはなぜですか?放置しても大丈夫ですか?
ゴリゴリという音は、クッションである軟骨がすり減り、ザラザラになった骨同士が直接こすれ合っている、あるいは関節の中にできた「骨棘(トゲ)」が周囲の組織に引っかかっているために鳴っています。音だけで痛みがなければ経過を見ることもありますが、痛みを伴う場合は軟骨の破壊が進行しているサインですので、放置せずにまつもと整形外科をご受診ください。
ヒアルロン酸の注射は、何度も繰り返し打って大丈夫なのですか?
はい、大丈夫です。ヒアルロン酸はもともと人間の関節の中にある成分と同じであり、軟骨の潤滑油や栄養として働きます。副作用は極めて少なく、2週間に1回のペースで数回続けて注射をすることで、炎症を抑えて関節の動きを滑らかにする効果が期待できます。ステロイド注射のように関節を弱くする副作用はないため、安心して受けていただけます。
痛くて夜も眠れない(夜間痛がある)時は、どうすればいいですか?
夜間痛は、変形性肩関節症や腱板断裂で非常によく見られる辛い症状です。まずは肩を冷やさないようにタオルなどをかけ、寝る姿勢を工夫してみてください。仰向けで寝る時は、痛い方の肩の裏側や肘の下にクッションを敷いて、肩が後ろに落ち込まないようにすると痛みが和らぐことがあります。それでも眠れない場合は、我慢せずに受診してください。お薬や注射で適切に炎症をコントロールします。
手術(人工関節)は、どのような状態になったら必要ですか?
まつもと整形外科では、まずお薬、ヒアルロン酸注射、理学療法士によるリハビリといった「保存的加療」を徹底して行います。しかし、半年から1年ほど保存的加療を続けても「夜眠れないほどの激痛が続く」「痛くて服の着脱が一人でできない」「腕が全く上がらず日常生活に重大な支障が出ている」といった場合には、最終的な解決手段として手術(人工肩関節置換術)を検討していただくために、専門病院へご紹介いたします。















