環軸椎回旋位固定とは

環軸椎回旋位固定(かんじくついかいせんいこてい)とは、首の骨(頸椎:けいつい)の一番上にある第1頸椎(環椎:かんつい)と、そのすぐ下にある第2頸椎(軸椎:じくつい)で作られる関節が、ねじれた状態(回旋した状態)で「ロック(固定)」されてしまい、元に戻らなくなる疾患です。
人間の首の骨は7つの骨で構成されていますが、私たちが首を左右に振るとき、その動きの大部分は、この第1頸椎と第2頸椎の間にある「環軸関節(かんじくかんせつ)」で行われています。この関節は非常に動きが大きい反面、構造的に不安定になりやすいという特徴を持っています。
この疾患は、骨や関節の構造がまだ発達が不十分で、関節を支える靭帯(じんたい)が柔らかい小児期(特に幼稚園児から小学校低学年のお子様)に特有の疾患です。大人に発症することは極めて稀です。
関節がねじれて外れかかったような状態(亜脱臼:あだっきゅう)のまま固定されてしまうため、お子様は激しい痛みを伴い、首を真っ直ぐに直すことができなくなります。医学的には、この独特の首が傾いてねじれた姿勢を、小鳥が首を傾げる様子に例えて「コックロビン位(Cock Robin position)」と呼びます。単なる筋肉の痙攣である「寝違え」とは根本的に原因が異なるため、整形外科での専門的な治療が必要となります。
症状
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突然、首が左右どちらかに傾き、反対側を向いたまま「首が回らない」状態になる
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首を真っ直ぐに直そうとしたり、動かそうとしたりすると「首が痛い」と激しく泣いて嫌がる
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痛みを和らげるために、自分の両手で頭やあごを下から支えるような仕草をする
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首から肩にかけての筋肉(胸鎖乳突筋など)が、片側だけ異常に硬く張っている
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上を向いたり、下を向いたりする動作ができなくなる
など
原因
環軸椎回旋位固定がなぜ起こるのか、その原因は大きく分けて「軽微な外傷(ケガ)」と「感染症に伴う炎症」の2つのパターンが考えられています。子供の関節の柔らかさが背景にあるため、大人であれば何ともないような些細なきっかけで発症します。
軽微な外傷(首への負担)
体育の授業や遊びでのマット運動、ソファーやベッドの上での転回、友達と遊んで軽く首をひねった、あるいは寝返りを打った際など、日常生活のちょっとした首への衝撃や負担が引き金となって、関節がねじれたままはまり込んでしまいます。
上気道感染(風邪や扁桃炎)による影響
実は、発症の1〜2週間前に「風邪を引いていた」「扁桃腺が腫れて熱を出していた」「中耳炎になっていた」というお子様が非常に多くいらっしゃいます。のどや鼻の奥の強い炎症が、すぐ後ろにある首の骨(頸椎)の関節や靭帯に波及し、靭帯が緩んでしまうことで関節がずれやすくなるのです。これを医学用語で「グリゼル症候群(Grisel症候群)」と呼びます。
小児特有の骨格構造
子供の第1頸椎と第2頸椎の関節面は、大人に比べて平らでツルツルしており、ストッパーとなる骨の隆起も未発達です。そのため、靭帯が少し緩んだり、無理な力がかかったりするだけで、簡単に滑って回旋したまま戻らなくなってしまいます。
診断
詳細な問診と視診・触診
「いつから首が傾いているか」「数日前にマット運動をしなかったか」「最近、風邪や熱を出していなかったか」を詳しく伺います。そして、お子様の首の傾き方(コックロビン位になっていないか)、どちらの筋肉が張っているか、どの方向に首を動かせるかを確認します。
X線(レントゲン)検査
口を大きく開けた状態での正面からの撮影(開口位撮影)や、側面からの撮影を行います。第1頸椎と第2頸椎の位置関係のズレや、他の骨の異常(骨折や奇形など)がないかを確認します。ただし、お子様は痛みのために真っ直ぐな姿勢を保てないことが多く、レントゲンだけでは正確な判断が難しいケースが多々あります。
CT検査(確定診断に必須)
環軸椎回旋位固定の確定診断や、ズレの程度(重症度)を正確に評価するためには、CT検査が非常に有効です。首の骨を立体的(3D)に画像化することで、関節がどの程度ねじれてロックされているかが確認できます。CT検査が必要と判断した場合は提携する総合病院等の専門医療機関へ速やかにご紹介し、スムーズに検査を受けていただけるよう手配いたします。
セルフチェック
子供が突然首を痛がり、不自然な姿勢になっている場合、ご自宅で確認していただきたいセルフチェックリストです。以下の項目を確認し、医師へお伝えいただくと診断が非常にスムーズになります。
☑️ 首が左右どちらかに傾き、あごが反対側を向いた不自然な姿勢のまま固定されている。
☑️ 痛がっている数日から1〜2週間前に、風邪(のどの痛み、熱、中耳炎など)を引いていた。
☑️ 痛がる直前に、でんぐり返しをしたり、頭から転がったりする遊びをしていた。
☑️ おもちゃなどで気を引いて反対側を向かせようとしても、首だけを動かすことができず、体全体で振り向く。
☑️ 手で自分の頭やあごを支えるようにして痛みをこらえている。
治療
環軸椎回旋位固定の治療は、発症からいかに早く(理想は発症後数日以内に)正しい治療を開始できるかが、その後の回復期間を大きく左右します。
頸椎カラーによる固定と局所の安静
発症から1週間以内の早期に受診された場合、最も効果的な治療は「首を動かさないこと」です。お子様の首のサイズに合った「頸椎カラー(柔らかいスポンジ状の首のコルセット)」を装着し、首の重みを支えて関節を安静に保ちます。多くの場合、カラーを装着して数日から1週間程度安静にするだけで、関節周辺の筋肉の緊張が解け、自然にロックが外れて首が真っ直ぐに戻ります。
薬物療法(飲み薬)
痛みが強くて夜も眠れない場合や、筋肉の痙攣が強い場合には、小児用の非ステロイド性消炎鎮痛剤(痛み止め・炎症止め)や、筋肉の緊張をほぐすお薬を処方し、痛みを和らげます。
牽引療法(重症・難治例への対応)
発症から長期間(数週間以上)放置されてしまったり、カラー固定だけでは関節のロックが外れなかったりする重症のケースでは、「グリソン牽引(あごにバンドをかけて首を上方に引っ張る治療)」という持続的な牽引治療が必要になります。この牽引治療は原則として入院設備のある病院でのベッド上安静が必要となるため、その際は速やかに専門の連携病院へ責任を持ってご紹介いたします。
リハビリ
急性期(痛みが強い時期)
「動かさないこと」「安静に保つこと」が最高のリハビリです。頸椎カラーを装着し、痛みが誘発されない楽な姿勢で過ごすことが、関節のロックを解除するための近道となります。
回復期(首が真っ直ぐに戻った後)
関節が元の位置に戻り、痛みが完全になくなったことが確認できたら、少しずつ頸椎カラーを外す時間を増やし、日常生活の動きを再開していきます。
セルフケア・予防
環軸椎回旋位固定は、お子様の関節の柔らかさという構造的な問題があるため、完全に予防することは困難です。しかし、リスクを減らし、重症化を防ぐための日常の心がけはいくつかあります。
風邪やのどの痛みの適切な治療
のどや鼻の炎症が首の関節の靭帯を緩める原因となるため、子供が風邪を引いたり、扁桃腺を腫らしたりした場合は、小児科や耳鼻咽喉科でしっかりと最後まで治療を受けることが大切です。
無理な運動をさせない
子供が怖がっている場合には体育は休ませ、首に負担のかかるようなアクロバットな遊びをさせたりするのは避けましょう。
「たかが寝違え」と放置しない(最大の予防)
この疾患において最も重要なセルフケアは、「自己判断で放置しないこと」です。発症後すぐに受診すれば頸椎カラーと安静だけで治るものが、放置すると筋肉がその形で固まってしまい、入院による持続牽引や、最悪の場合は手術(首の骨を固定する手術)が必要になることもあります。「早期受診」が、後遺症を防ぐ最大の予防策です。
Q&A
単なる「寝違え」と「環軸椎回旋位固定」は、どうやって見分ければ良いですか?
一番の特徴は「首の不自然なねじれ(コックロビン位)」があるかどうかです。寝違えの場合は、痛いながらも少しは首を動かせたり、特定の方向だけが痛かったりすることが多いです。しかし環軸椎回旋位固定の場合は、首が完全に片側に傾いて固定され、反対を向くことが全くできなくなります。また、手であごを支えようとする仕草も環軸椎回旋位固定に特徴的です。迷った場合は決して無理に動かさず、まつもと整形外科をご受診ください。
首が傾いているので、親が手で真っ直ぐに直してあげても良いですか?
絶対にやめてください。関節がずれてロックされている状態(亜脱臼)ですので、親御さんが無理に力を加えて首を真っ直ぐにしようとすると、関節の中を通っている大切な神経(脊髄)を傷つけてしまう大事故につながる恐れがあります。痛がるままの姿勢を保ち、できるだけ安静にしてご来院ください。
痛がっている時は、首を冷やした方が良いですか?温めた方が良いですか?
発症直後の急激に痛がっている時期(急性期)は、関節や周囲の筋肉に強い炎症が起きているため、氷のうや保冷剤などで軽く「冷やす」方が痛みを和らげる効果があります。無理に温めると炎症が強くなり、悪化する恐れがあります。お風呂も、痛みが強い数日間は長湯を避け、シャワーなどでサッと済ませることをお勧めします。
一度治っても、また再発することはありますか?
お子様の関節はもともと柔らかく、靭帯が緩みやすいため、成長して関節の骨がしっかりとした大人の構造になるまでの間(小学校高学年頃まで)は、再び風邪を引いた時や、でんぐり返しをした時などに再発する可能性はゼロではありません。しかし、成長とともに骨格が安定してくるため、大人になってから再発することはまずありませんのでご安心ください。
どれくらいの期間で治りますか?学校や幼稚園は休ませるべきですか?
発症後すぐに受診していただき、頸椎カラーによる固定が開始できた場合は、多くのお子様が1週間から2週間程度で関節のロックが外れ、痛みが取れて治癒します。しかし、痛みが強い期間や、首が傾いたままの期間は、転倒による思わぬケガを防ぐためにも、学校や幼稚園はお休みさせてご自宅で安静にしていただく必要があります。















