モートン病(モートン神経腫)とは

モートン病とは、足の指に向かって伸びている神経が、足の指の付け根の関節(中足趾節関節:MTP関節)付近で圧迫されたり、擦れ合ったりすることで炎症を起こし、痛みやしびれを引き起こす神経障害の一種です。19世紀にこの疾患を報告したトーマス・モートン医師の名前にちなんで「モートン病」と呼ばれています。
足の裏には、足首から指先(足趾)に向かって「足底神経(そくていしんけい)」という神経が木の枝のように分かれて走っています。この神経は、足の指の骨と骨の間を通る際に、「深横中足靭帯(しんおうちゅうそくじんたい)」という靭帯のすぐ下を潜り抜けます。 歩行時、特につま先立ちになる瞬間(地面を蹴り出す時)には、この神経が靭帯と地面との間に強く挟まれ、物理的なストレスを受けます。この圧迫や摩擦が慢性的に繰り返されると、神経そのものが炎症を起こして太く腫れ上がり、「仮性神経腫(かせいしんけいしゅ)」と呼ばれるコブのような塊を形成してしまいます。
モートン病が最も発生しやすいのは、「足の中指(第3趾)と薬指(第4趾)の間」です。次いで「人差し指(第2趾)と中指(第3趾)の間」にも多く見られます。
この病気の根本的な背景には、足の横幅がベタッと広がってしまう「開張足(かいちょうそく)」が潜んでいます。人間が本来持っている、足の衝撃を吸収する「横アーチ」が崩れてしまうことで、神経への負担が何倍にも増大してしまうのです。
症状
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中指と薬指の付け根の痛み
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足の指のしびれ
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異物感(小石を踏んでいる感覚)
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靴を履くと痛みが強くなる
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裸足で休むと痛みが消える
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足の裏(指の付け根付近)にタコができる
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つま先立ちやしゃがみ込みが困難
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痛みをかばうことによる二次的な痛み
など
原因
【外因性(環境や習慣の要因)】
○足に合わない靴の着用
最も大きな原因です。ハイヒールはつま先立ちの姿勢を強制するため、神経が靭帯に強く押し付けられます。また、つま先の細い靴は足の横幅を無理やり締め付けるため、神経が骨と骨の間に挟み込まれてしまいます。
○スポーツなどでの過度な負担
ランニング、バレエ、ダンス、テニスなど、つま先での踏み込みやジャンプ動作を頻繁に繰り返すスポーツは、足底神経に過酷なストレスを与えます。長時間の立ち仕事や歩行をされる方もリスクが高まります。
【内因性(ご自身の身体の要因)】
○開張足(横アーチの崩れ)
加齢や運動不足により、足の指を束ねている靭帯や筋肉が緩むと、足の横アーチがペタンと潰れる「開張足」になります。アーチが潰れると、本来は地面に触れないはずの神経の通り道がダイレクトに地面からの衝撃を受けるようになります。外反母趾や扁平足の方にモートン病が合併しやすいのはこのためです。
○女性ホルモンの影響と関節の柔らかさ
関節を支える靭帯が男性に比べて柔らかいこと、また更年期以降の女性ホルモンの低下によって靭帯がさらに緩みやすくなるため、中年以降の女性に圧倒的に多く発症します。
診断
問診・視診・触診
いつ頃から、どんな靴を履いた時に痛むのかを詳しく伺います。足のアーチの崩れ具合や、タコの位置を確認します。そして、痛む部位(指の間)を直接指で押して、しびれや痛みが指先に広がるか(チネルサイン)を確認します。
マルデルテスト(Mulder's sign)
モートン病に非常に特徴的なテストです。足の横幅を両側から手でギュッと強く挟み込みながら、痛む指の間を下から押し上げます。この時、腫れ上がった神経が骨と骨の間を移動する「クリック音(コリッという感触)」とともに激痛が走れば、モートン病の疑いが極めて強くなります。
X線(レントゲン)検査
レントゲンに神経は写りませんが、中足骨の疲労骨折や、関節リウマチによる骨の破壊、外反母趾の程度など、痛みの原因が「骨の異常」ではないことを確認(除外診断)するために必須の検査です。
超音波(エコー)検査・MRI検査
骨と骨の間にできた神経のコブ(仮性神経腫)の大きさや位置を画像として確認できることがあります。
セルフチェック
ご自身の足の痛みが「モートン病」の兆候を示していないか、ご自宅で簡単にできるチェックリストをご用意しました。
☑️ 足の中指と薬指の間に、ピリピリとしたしびれや痛みがある。
☑️ 靴を脱いで素足になると、痛みが楽になる。
☑️ 足の横幅を両手で両側からギュッと強く締め付けると、指の間に痛みが走る。
☑️ 足の裏の人差し指や中指の付け根あたりに、タコができている。
☑️ 足の指を反らせて「つま先立ち」の姿勢になると痛みが強くなる。
☑️ 普段からヒールの高い靴や、先の細いパンプスをよく履いている。
☑️ 外反母趾と言われたことがある、または足幅が広い(開張足)や扁平足の自覚がある。
※複数当てはまる場合は、神経の炎症が進んでいる可能性があります。痛みを我慢せず、お早めにまつもと整形外科へご相談ください。
治療
【保存的加療】
装具療法(インソール・足底挿板)
モートン病の治療において最も重要かつ効果的なのが、医療用のインソール(中敷き)の作成です。まつもと整形外科では、患者さまの足の形に合わせて、潰れてしまった「足の横アーチ」を立体的に持ち上げるインソールを完全なオーダーメイドで作成します。アーチが復元されることで、骨と骨の間が広がり、神経への圧迫が劇的に軽減されます。
薬物療法
痛みが強い時期には、非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)の飲み薬や湿布を処方します。また、ダメージを受けた神経の修復を促すビタミンB12製剤(メコバラミン)や、神経特有のジンジン・ビリビリとした痛みを和らげる神経障害性疼痛治療薬(プレガバリンやミロガバリンなど)を患者さまの症状に合わせて処方します。
局所注射療法(ブロック注射)
インソールや飲み薬で痛みが治まらない激しい痛風に対しては、炎症を起こしている神経の周囲にエコーガイド下に少量のステロイド剤を注射します。炎症が速やかに鎮まり、劇的に痛みが取れることが多いですが、ステロイドの頻用は周囲の組織を脆くするリスクがあるため、回数を制限して慎重に行います。
【手術療法】
数ヶ月にわたって保存的加療を継続しても痛みが取れず、歩行が困難な状態が続く重症例(神経腫が極端に大きくなっている場合など)には、手術を検討します。神経を圧迫している靭帯を切り開く「深横中足靭帯切離術」や、腫れ上がった神経のコブそのものを切り取ってしまう「神経腫摘出術」などがあります。まつもと整形外科にて手術が必要と判断した場合は、足の外科を専門とする連携病院へ責任を持ってご紹介いたします。
リハビリ
徒手療法(マッサージ・ストレッチ)
モートン病の方は、痛みをかばって歩くため、ふくらはぎ(下腿三頭筋)や足首周りの筋肉がパンパンに硬くなっています。理学療法士の「人の手」による丁寧なストレッチで、ふくらはぎやアキレス腱の柔軟性を引き出します。足首が柔らかくなることで、つま先にかかる過剰な負担が逃げやすくなります。
足趾(そくし)の機能訓練
足のアーチを支えているのは、足の裏にある細かい筋肉(足内在筋)です。この筋肉を鍛えるために、足の指を使ってタオルをたぐり寄せる「タオルギャザー運動」や、足の指でジャンケン(グー・チョキ・パー)をする体操を指導し、自前の筋肉によるアーチの再構築を目指します。
歩行指導
足の指先に負担をかけない「正しい体重移動」を身体に覚え込ませます。かかとから着地し、足の外側を通って、最後に親指の腹でスッと地面を蹴り出す、スムーズな歩行動作を専門的な視点から指導いたします。
セルフケア・予防
正しい靴の選び方
これが最大の予防法です。つま先(トゥボックス)が細く尖った靴や、ヒールの高い靴はできるだけ避けてください。足の指が靴の中で自由に動かせるだけの幅があり、なおかつ「かかと部分」が硬くてしっかりホールドされる靴が理想的です。靴紐やマジックテープで甲をしっかり固定できるスニーカーを通勤靴に取り入れることを強くお勧めします。
室内での過ごし方(硬い床からの保護)
フローリングなどの硬い床を裸足で歩くと、足の裏の痛む部分(神経のコブ)に直接衝撃が加わり、かえって炎症を悪化させてしまうことがあります。そのため、痛みが強い時期は裸足を避け、クッション性の高いルームシューズ(室内履き)や、足の裏のアーチをサポートするふっくらとしたスリッパを着用して、患部へのダイレクトな衝撃を和らげてください。
足の指のストレッチを習慣に
お風呂上がりなど、足の筋肉が温まっている時に、手と足の指を「恋人つなぎ」のように深く組み合わせて、足首や足の指全体を大きく優しく回すストレッチを行ってください。固まった関節がほぐれ、神経へのストレスが和らぎます。
Q&A
外反母趾(がいはんぼし)とは違う病気ですか?
はい、異なる疾患です。「外反母趾」は親指が小指側に向かって「くの字」に曲がってしまう骨の変形そのものを指します。一方、「モートン病」は中指と薬指の間の「神経」が圧迫されて痛む病気です。しかし、どちらも根本の原因は「足の横アーチの崩れ(開張足)」であるため、外反母趾を持っている方がモートン病を併発することは非常に多く見られます。
痛みを我慢して放置するとどうなりますか?
最初は特定の靴を履いた時だけの痛みであっても、放置して神経の炎症が続くと、次第に神経のコブ(神経腫)が大きくなり、素足で歩いても常に激痛が走るようになります。さらに痛みをかばって歩くことで、膝や腰など全身に痛みが波及してしまうため、決して我慢せず早期に治療を開始することが大切です。
痛みが強いのですが、必ず手術が必要になりますか?
いいえ、すぐに手術になることは極めて稀です。モートン病の多くは、完全オーダーメイドで作成する「医療用インソール」の着用、正しい靴への変更、必要に応じた注射やリハビリといった「保存的加療」によって、日常生活に支障がないレベルまで痛みをコントロールすることが十分に可能です。まずは保存的治療からしっかりと開始します。
仕事柄、どうしてもパンプスを履かなければならないのですが、どうすれば良いですか?
お仕事の事情でお悩みの方は多くいらっしゃいます。どうしてもパンプスが必要な場合は、つま先が丸いタイプ(ラウンドトゥ)や四角いタイプ(スクエアトゥ)を選び、ヒールの高さは3cm以下に抑えてください。また、通勤時や休憩中はスニーカーなど楽な靴に履き替える、パンプスの中に薄型の専用インソールを入れるなど、足が圧迫される時間を1分でも減らす工夫をしていきましょう。
モートン病が治るまで、どれくらいの日数がかかりますか?
症状の重さや生活環境によって個人差が大きく異なります。インソールを使い始めたり、ステロイドの注射を行ったりすることで、数週間で劇的に痛みが改善する方もいらっしゃいます。しかし、長年の負担によって出来てしまった「神経の腫れ」や「アーチの崩れ」が完全に落ち着き、再発しない足を作るには、数ヶ月単位でじっくりとリハビリやインソールでの矯正を続ける必要があります。焦らずにケアを続けていくことが重要です。















