ベーカー嚢腫|久留米の整形外科|まつもと整形外科【西鉄安武駅徒歩2分】

ベーカー嚢腫 BAKERS-CYST

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ベーカー嚢腫(のうしゅ)とは

ベーカー嚢腫(Baker's cyst)とは、膝の裏側(膝窩:しっか)にある「滑液包(かつえきほう)」という摩擦を減らすための小さな袋に、関節の中を満たしている関節液(いわゆる「膝の水」)が過剰に流れ込み、膝の裏がパンパンに腫れ上がってしまう疾患です。19世紀にこの病態を報告したイギリスの外科医、ウィリアム・モラント・ベーカーの名前に由来して名付けられました。

人間の膝関節は、「関節包(かんせつほう)」という丈夫な袋で包まれており、その中は少量の関節液で満たされ、軟骨に栄養を与えたり動きを滑らかにする潤滑油の働きをしています。また、関節の周囲には筋肉や腱がスムーズに動くためのクッションとして、いくつかの「滑液包」が存在します。膝の裏にある滑液包は、関節の内部と細いトンネルのような抜け道で繋がっている構造をしています。

何らかの原因で膝関節内に強い炎症が起きると、関節液が異常に多く分泌されます(これが「膝に水が溜まった」状態です)。この行き場を失った大量の関節液が、トンネルを通って膝の裏の滑液包へと押し出されます。ここで厄介なのが、このトンネルが「一方通行の弁(チェックバルブ)」のような働きをしてしまうことが多い点です。関節内から膝の裏へは水が流れるのに、膝の裏から関節内へは水が戻りにくくなるため、膝の裏の袋だけが水風船のようにどんどん大きく膨らんでしまい、ベーカー嚢腫が形成されます。

50代以上の中高年の女性に多く見られますが、スポーツで膝を酷使する若い世代でも、半月板などを痛めた結果として発症することがあります。

症状

ベーカー嚢腫の症状は、袋の中にどれくらい水が溜まり、周囲の組織をどれくらい圧迫しているかによって異なります。「膝が曲がらない」「膝の裏が痛い」など、以下の5つの症状に心当たりがある場合は、ベーカー嚢腫の可能性があります。

膝の裏に「しこり」や「腫れ」を触れる

膝の裏を触ると、ゴムまりのような弾力のある柔らかい膨らみがあります。仰向けで膝をピンと伸ばして寝た状態や立った状態で触ると、よりはっきりと大きさを感じることができます。

膝を深く曲げたり、ピンと伸ばしきったりした時に、強い圧迫感や突っ張り感がある

膝の裏に水風船が挟まっているような状態になるため、和式トイレでしゃがむ動作や、正座をすることが物理的に困難になります。無理に曲げようとすると膝の裏に強い痛みを伴います。

歩行時や立ち上がる際に、膝の後ろ側からふくらはぎにかけて重だるい痛みが生じる

嚢腫が大きくなると、周囲の神経や血管、筋肉の腱を圧迫するため、単なる膝の痛みだけでなく、ふくらはぎに向かって広がるような重だるい痛みや、しびれに似た違和感を感じることがあります。

腫れの大きさや痛みの強さが、日によって、あるいは運動量によって変化する

関節内の炎症の度合いによって水の量が変動するため、「たくさん歩いた日の夕方は膝の裏がパンパンに張って痛いけれど、数日安静にしていると少し腫れがしぼんで楽になる」といった波があることがあります。

原因

ベーカー嚢腫は、それ自体が単独で発生する病気ではなく、「膝関節の中で起きている何らかの異常(別の病気)に対する二次的な結果」として生じます。したがって、膝の裏に水が溜まる根本的な原因を見つけ出すことも重要です。主な原因には以下の疾患が挙げられます。

変形性膝関節症(へんけいせいひざかんせつしょう)

中高年の方におけるベーカー嚢腫の最も多い原因です。加齢や体重増加、長年の負担によって膝の軟骨がすり減り、剥がれ落ちた軟骨の欠片が関節の中を刺激することで慢性的な炎症(滑膜炎)が起き、関節液が大量に分泌されます。

関節リウマチ

自己免疫の異常により、全身の関節の「滑膜(関節を包む膜)」に強い炎症が起こる病気です。膝関節で強い滑膜炎が起きると、多量の関節液が産生され、ベーカー嚢腫を形成しやすくなります。

半月板損傷(はんげつばんそんしょう)

膝のクッションの役割を果たしている軟骨(半月板)が、スポーツのケガや加齢による変性で裂けてしまう状態です。傷ついた半月板が周囲の組織を刺激して炎症を起こし、水が溜まります。

その他の関節炎や外傷

痛風や偽痛風といった結晶性の関節炎、あるいは靭帯損傷などのケガの後遺症によっても、関節内の炎症が長引くことで発症するケースがあります。

診断

問診と触診

「いつ頃から腫れに気づいたか」「正座はできるか」「膝の痛みはどこにあるか」を伺います。実際に膝の裏を触り、腫れの硬さや可動域を確認します。

超音波(エコー)検査

ベーカー嚢腫の診断において極めて有効かつ安全な検査です。診察室でリアルタイムに膝の裏を観察し、しこりの中身が液体(黒く抜けて写ります)であることを瞬時に確認できます。また、周囲の血管との位置関係も安全に把握できます。

X線(レントゲン)検査

ベーカー嚢腫自体はレントゲンには写りませんが、根本原因である「変形性膝関節症」の進行度(軟骨がどれくらいすり減っているか、骨の変形はないか)を確認するために必須の検査です。

セルフチェック

ご自身の膝の裏の違和感がベーカー嚢腫の可能性があるかどうか、ご自宅で確認できる簡単なセルフチェックリストです。

☑️ うつ伏せに寝て、両膝の裏を触り比べた時、痛い方の膝の裏にだけ「水風船」のようなぷよぷよとした、あるいはパンパンに張った膨らみがある。
☑️ 仰向けで膝をまっすぐ伸ばして床に押し付けようとすると、膝の裏に何かが挟まっているような突っ張り感があり、最後まで伸ばしきれない。
☑️ 和式トイレにしゃがんだり、正座をしようと深く膝を曲げると、膝の裏が圧迫されて破れそうな痛みが走る。
☑️ 膝の裏の腫れだけでなく、階段の昇り降りや歩き出しの際に「膝の前側や内側」にも痛みがある(変形性膝関節症を併発しているサイン)。
☑️ 長時間歩いた日の夜は腫れが目立ち、数日休むと少し小さくなる気がする。

治療

穿刺(せんし)

腫れが大きく、圧迫感や痛みが強い場合の第一選択となります。超音波(エコー)で袋の位置を正確に確認しながら、注射器で溜まっている関節液を抜き取ります(黄色く透き通ったゼリー状の液体が引けます)。

根本疾患の治療(保存療法)

変形性膝関節症など併発している場合には並行して治療を行います。関節内にヒアルロン酸注射を行って軟骨の滑りを良くしたり、炎症を抑える飲み薬を処方したりして、関節内の「水を作る原因」を元から断ちます。

手術療法

保存療法を繰り返し行ってもすぐにパンパンに腫れてしまい日常生活に多大な支障をきたす場合や、半月板損傷が原因で手術による修復が必要な場合には、手術が検討されます。手術が必要な場合は、専門の医療機関へ責任を持ってご紹介いたします。

リハビリ

大腿四頭筋(太ももの前側の筋肉)の筋力強化

膝関節を守る「強力なサポーター」の役割を果たすのが大腿四頭筋です。この筋肉が弱ると、歩行時の衝撃がダイレクトに膝の軟骨に伝わり、炎症を引き起こします。関節に負担をかけない安全な方法(足上げ運動など)で、太ももの筋肉を徹底的に鍛え上げます。

ハムストリングスとふくらはぎのストレッチ(柔軟性改善)

膝の裏に水が溜まると、膝の後ろ側の筋肉(ハムストリングスや下腿三頭筋)が常に緊張し、ガチガチに硬くなります。これがさらに膝の伸びを悪くし、痛みを増強させます。理学療法士の手技により、これらの筋肉の緊張を丁寧にほぐし、正しい膝の可動域を取り戻します。

歩行動作と姿勢

変形性膝関節症が原因の方は、O脚(ガニ股)になりやすく、歩くたびに膝の特定の場所に負担が集中します。局所的な治療だけでなく、股関節や足首の柔軟性を含めた全身のバランスを評価し、膝へのメカニカルストレスを最小限に抑える「正しい歩き方・身体の使い方」を指導し、再発しない身体づくりをサポートいたします。

セルフケア・予防

ご自身の足で一生元気に歩き続けるためには、膝への負担を減らす日々のセルフケアが治療と同じくらい重要です。

適正体重の維持(減量)

歩行時には膝に体重の約3倍、階段では約5倍の負荷がかかります。体重が数キロ増えるだけで、膝の軟骨には計り知れないストレスがかかり、炎症(水が溜まる原因)を引き起こします。食生活を見直し、適正体重を保つことが何よりの予防・治療法です。

和式生活から洋式生活への変更

正座や和式トイレ、布団での寝起きといった動作は、膝を深く曲げるため関節の内部や膝の裏に極めて強い圧力をかけ、ベーカー嚢腫を悪化させたり破裂の危険性を高めます。椅子、洋式トイレ、ベッドを使用した「洋式生活」を心がけてください。

痛みの波に合わせた安静と適度な運動の継続

痛みが強く、膝の裏がパンパンに張っている時期は、決して無理をせず関節を休ませる(安静にする)ことが最優先です。しかし、痛みが落ち着いてきたら、今度は筋力を落とさないための運動が重要になります。水中ウォーキングやエアロバイクなど、膝に直接的な体重負荷がかからない安全な運動を日々の生活に取り入れ、膝を支える筋肉を維持することが、水が溜まるのを防ぐ最大のセルフケアとなります。

Q&A

Q

膝の裏のしこりに気づきました。悪性の腫瘍(ガン)ではないかと不安です。

A

膝の裏の腫れの大部分は、良性の「ベーカー嚢腫」ですので過度に恐れる必要はありません。しかし、非常に稀ですが「悪性腫瘍」や「動脈瘤」などの可能性もゼロではありません。これらの鑑別は超音波(エコー)検査やMRI検査で行うことができますので、自己判断で放置せず、まずは安心してまつもと整形外科へご相談ください。

Q

整形外科で注射器を使って水を抜いてもらいましたが、数週間でまた腫れてきました。水を抜くと「クセ」になるのでしょうか?

A

いいえ、「水を抜くからクセになって溜まる」というのは医学的に誤った迷信です。水が再び溜まってしまう本当の理由は、背後にある根本原因(変形性膝関節症による軟骨の摩耗や、半月板損傷など)が治っておらず、関節の中で「炎症が続いて水が作られ続けているから」です。根本的な炎症を止める治療と、膝の負担を減らすリハビリを並行して行うことが再発防止の鍵となります。

Q

膝の裏にポッコリとした腫れはありますが、今は特に痛みはありません。そのまま放置して自然に治るのを待っても良いですか?

A

痛みがなく、日常生活に支障がない小さなベーカー嚢腫であれば、無理に水を抜く必要はなく、経過観察で問題ないケースもあります。しかし、放置している間に背後にある「軟骨のすり減り」が密かに進行してしまう恐れがあります。また、腫れを放置しすぎると、何かの拍子に袋が破裂してふくらはぎに激痛を引き起こすリスクもあります。痛みがない場合でも、一度は整形外科を受診し、ご自身の膝の軟骨の状態を正しく把握しておくことをお勧めします。

監修

院長
松本 淳志 Atsushi Matsumoto

経歴

  • 済生会福岡総合病院
  • 製鉄記念八幡病院
  • 福岡市民病院
  • 九州大学病院
  • 九州医療センター
  • 福岡赤十字病院
  • 済生会八幡総合病院
  • 福岡青洲会病院

資格・所属学会

  • 日本整形外科学会 専門医(日本専門医機構)
  • 日本整形外科学会認定 運動器リハビリテーション医
  • 日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医
  • 日本フットケア学会認定 フットケア指導士
  • 身体障害者福祉法第15条指定医師(肢体不自由)
  • 難病指定医
  • 日本整形外科学会
  • 日本フットケア・足病医学会