有痛性外脛骨(ゆうつうせいがいけいこつ)とは

有痛性外脛骨とは、足の内側(内くるぶしの少し前下方)にある「舟状骨(しゅうじょうこつ)」という骨の内側に、本来はないはずの余分な骨(過剰骨:かじょうこつ)が存在し、そこに痛みを伴う炎症が起きる疾患です。
人間の足の骨は通常26個ありますが、実は日本人の約15〜20%の人の足には、この舟状骨の脇に「外脛骨」と呼ばれる小さな余分な骨が存在しています。外脛骨があること自体は病気ではなく、単なる「骨の個体差(生まれつきの個性)」であり、一生痛みが出ないまま過ごす方もたくさんいらっしゃいます。
しかし、この舟状骨(および外脛骨)には、「後脛骨筋(こうけいこつきん)」という、ふくらはぎから足の裏に向かって伸びる強力な筋肉の腱が付着しています。後脛骨筋は、足の土踏まず(内側縦アーチ)を釣り上げて支える非常に重要な役割を担っています。

スポーツなどで走ったりジャンプしたりする動作を繰り返すと、この後脛骨筋の腱が外脛骨を強く引っ張ります。その繰り返しの牽引力(メカニカルストレス)によって、本来の舟状骨と外脛骨のつなぎ目(軟骨結合部)に亀裂が入ったり、強い炎症が起きたりして、激しい痛みを発症します。このように、外脛骨に痛みが伴うようになった状態を「有痛性外脛骨」と呼びます。
活発にスポーツを行う10歳〜15歳頃の思春期の子供たち(特にサッカーや陸上、バスケットボール、バレエなど)に最も多く発症しますが、捻挫をきっかけに大人になってから突然発症するケースも珍しくありません。
症状
-
内くるぶしの少し前下にある「骨の出っ張り」を押すと痛い(圧痛)
-
走ったりジャンプしたりするなど、足に体重がかかる動作で痛みが走る
-
靴を履くと、出っ張った骨が当たって擦れ、赤く腫れて痛む
-
長時間歩いたり立っていたりすると、足の裏から内側にかけてだるさや痛みが出る
-
つま先立ち(カーフレイズ)をすると、足の内側にピキッとした痛みが走る
など
原因
有痛性外脛骨を引き起こす原因は、単に「骨が出っ張っているから」だけではなく、足の構造的な問題と、外的なストレスが複雑に絡み合って生じます。
スポーツ活動によるオーバーユース(使いすぎ)
走る、飛ぶ、急な方向転換をするといった繰り返される動作により、後脛骨筋が外脛骨を過剰に引っ張り続けることが最大の引き金です。疲労が蓄積し、組織の修復が追いつかなくなることで炎症が慢性化します。
扁平足(へんぺいそく)や過回内(かかいない)
土踏まずが潰れている「扁平足」の方や、かかとが内側に倒れ込む「過回内(オーバープロネーション)」の足の形をしている方は、常に足の内側が引き伸ばされた状態になっています。そのため、正常なアーチを持つ人に比べて後脛骨筋が常に緊張しており、外脛骨に極めて強い負担がかかりやすい構造になっています。
足首の捻挫(ねんざ)などの外傷
足首を内側に強く捻った際、後脛骨筋が一気に引き伸ばされ、それをきっかけに外脛骨の軟骨結合部が剥がれたり傷ついたりして、急激に痛みを発症することがあります。大人になってからの発症原因として多く見られます。
靴の圧迫(物理的なストレス)
成長期で足のサイズが大きくなっているにもかかわらず、小さめの靴や幅の狭いスパイクを履き続けることで、出っ張った外脛骨が常に靴と摩擦を起こし、炎症を引き起こします。
診断
詳細な問診と触診

「どの動作で痛むか」「いつから痛いか」「どんな靴を履いているか」を確認します。実際に足の内側を触り、外脛骨の出っ張りの有無、圧痛(押したときの痛み)、局所の熱感や腫れを確認します。また、立った状態での土踏まずの高さ(扁平足の有無)や、かかとの傾きを評価します。
X線(レントゲン)検査

有痛性外脛骨の診断において基本となる検査です。足を様々な角度から撮影し、外脛骨の有無を確認します。外脛骨には形によってType1からType3までの分類があり、舟状骨本体と軟骨で繋がっている「Type2」が最も痛みを引き起こしやすいことが分かっています。このタイプ分類を正確に行うことで、治療方針を決定します。
超音波(エコー)検査

レントゲンでは見えない「後脛骨筋の腱」の炎症具合を詳細に確認するために、超音波検査が有効です。
セルフチェック
お子様やご自身の足の痛みが有痛性外脛骨の疑いがあるかどうか、ご自宅で確認できる簡単なセルフチェックリストです。
☑️ 足の内側(内くるぶしの下から親指側にかけての中間あたり)に、出っ張った骨がある。
☑️ その骨の出っ張りを指で強く押すと痛い。
☑️ 裸足でまっすぐ立った時、土踏まずがなくベタッと床についている(扁平足である)。
☑️ 後ろから足元を見た時、アキレス腱からかかとにかけてのラインが「くの字」に曲がり、かかとが内側に倒れ込んでいる。
☑️ 片足でつま先立ちをしようとすると、足の内側が痛くて姿勢を維持できない。
※これらの項目に複数当てはまる場合、有痛性外脛骨の可能性があります。
治療
保存療法(痛みのコントロールと負担の軽減)
○局所の安静とスポーツの制限
痛みが強い急性期は、走る・ジャンプする動作を中止し、患部を休ませることが最優先です。
○インソール(足底装具)療法
これが有痛性外脛骨の治療において最も効果的で重要な治療法です。低下した土踏まず(アーチ)を物理的に押し上げ、かかとの倒れ込みを防ぐための医療用インソールを作成します。インソールによってアーチが保たれると、後脛骨筋の引っ張る力が劇的に弱まり、外脛骨にかかる負担がなくなって痛みが軽減します。
○薬物療法
痛みが強い急性期には、まずは患部の激しい炎症を抑えるために、非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)成分を含んだ湿布や塗り薬などを使用します。
○物理療法
超音波治療器や干渉波治療器といった専用の物理療法機器を用いて、外脛骨を引っ張っている原因である「後脛骨筋」の過度な緊張を深部からほぐします。局所の血流を改善することで、傷ついた軟骨結合部や組織の早期修復を強力に促します。
○注射療法(ステロイド注射)
インソールや安静などの保存療法を行っても激しい痛みが引かない「大人の難治例」に限り、痛みの原因となっている部分にエコーガイド下でステロイド注射を行うことがあります。劇的に痛みが取れることがありますが、ステロイドの成分によって足の土踏まずを支える「後脛骨筋腱」が脆くなり断裂してしまうリスクを伴うため、医師が極めて慎重に判断した場合にのみ行われます(※成長期のお子様には原則として行いません)。
○テーピング
試合が近いなど、どうしてもプレーを休めない場合には、土踏まずのアーチをサポートし、後脛骨筋の働きを助ける特殊なテーピングを行い、負担を軽減します。
手術療法について
インソールやリハビリなどの保存療法を長期間(数ヶ月〜半年以上)行っても激しい痛みが全く取れず、日常生活やスポーツ活動に著しい支障をきたす場合には、例外的に手術療法が検討されます。原因となっている外脛骨を摘出し、はがれた後脛骨筋腱を本来の舟状骨に縫い付ける手術(Kidner法など)が一般的です。手術が必要と判断した場合は、足の外科を専門とする医療機関へ責任を持ってご紹介いたします。
リハビリ
ふくらはぎとアキレス腱のストレッチ(柔軟性改善)
ふくらはぎの筋肉(下腿三頭筋)やアキレス腱が硬いと、足首が上に曲がりにくくなり、それを代償するために無意識に土踏まずを潰して歩くようになります(扁平足の悪化)。理学療法士の手技と的確なストレッチ指導により、足首周りの柔軟性を徹底的に改善し、足のアーチにかかる負担を減らします。
足底内在筋(足の裏の筋肉)の強化
低下したアーチを自分の筋肉で支えられるようにするため、「タオルギャザー(床に敷いたタオルを足の指でたぐり寄せる運動)」などのトレーニングを行い、足の裏の細かい筋肉群を鍛えます。
フォーム修正と下肢のアライメント調整
ジャンプの着地や踏み込みの際に、膝が内側に入り、つま先が外を向く「ニーイン・トゥーアウト」という不良動作があると、足の内側に凄まじいストレスがかかります。理学療法士が股関節や体幹の筋肉を含めた全身のバランスを評価し、足の内側に負担がかからない正しい身体の使い方を指導し、全身のバランスを根本から整えます。
セルフケア・予防
有痛性外脛骨の再発を防ぎ、スポーツを長く楽しむためには、ご自宅でのセルフケアと「靴の正しい履き方」が非常に重要です。
正しい靴の選び方と履き方の徹底
有痛性外脛骨の予防において、靴選びは命です。かかとをしっかりホールドしてくれる「ヒールカウンター」が硬くしっかりした靴を選んでください。そして、靴を履く時は必ず「かかとをトントンと合わせてから、靴紐を足首に向かってしっかり締め上げる」ことを徹底してください。靴の中で足がグラグラ動くと、後脛骨筋に余分な負担がかかります。
日々のふくらはぎのストレッチ
練習後やお風呂上がりなど、筋肉が温まっている時に、アキレス腱やふくらはぎのストレッチを毎日継続してください。足首の柔らかさを保つことが、土踏まずを守る最大の予防線となります。
痛みの波に合わせた練習量のコントロール
「痛い時は無理をせず休む、痛みが落ち着いたら足裏のトレーニングを行う」というメリハリをつけてください。痛みを隠して練習を続けると、インソールを作っても治りが悪くなります。足に痛みや違和感が出た場合は、早めに練習量を調整する勇気を持つことが大切です。
Q&A
子供の「成長痛(オスグッド病など)」とは違うのですか?そのままにしておけば大人になれば自然に治りますか?
有痛性外脛骨は、成長痛とは異なります。成長痛の多くは時期が来れば自然に痛みが消えますが、有痛性外脛骨は「扁平足」や「筋肉の引っ張り」という構造的・力学的な原因があるため、インソールによるアーチのサポートやストレッチなどの根本的な対処をしない限り、大人になっても痛みが長引いたり、再発を繰り返したりすることがあります。放置せず、早めの治療をお勧めします。
インソール(中敷き)は、市販の柔らかいクッションのものでも効果はありますか?
市販の柔らかすぎるクッションインソールは、有痛性外脛骨の治療には不向きな場合があります。この疾患に必要なのは、「柔らかさ」ではなく、潰れてしまった土踏まずのアーチを下からしっかりと支え、かかとの倒れ込みを矯正する「構造的なサポート力」です。まつもと整形外科で処方する医療用のインソールは、患者さま一人ひとりの足の形や症状に合わせて作成するオーダーメイドです。医師の診断に基づいて処方されるため保険適応となり、市販品にはない確かな矯正力で、非常に高い治療効果が期待できます。
痛みがなくなれば、出っ張っている骨は元に戻りますか(消えますか)?
いいえ、一度形成された外脛骨という「骨そのもの」は、手術をして削り取らない限り、痛みがなくなっても自然に消えたり、引っ込んだりすることはありません。しかし、適切な治療を行って炎症を鎮め、筋肉の張りを取ってあげれば、「骨が出っ張っていても、全く痛くない状態」にすることは十分に可能です。骨を消すことではなく、痛みなくスポーツができる状態を目指します。
監修
経歴
- 済生会福岡総合病院
- 製鉄記念八幡病院
- 福岡市民病院
- 九州大学病院
- 九州医療センター
- 福岡赤十字病院
- 済生会八幡総合病院
- 福岡青洲会病院
資格・所属学会
- 日本整形外科学会 専門医(日本専門医機構)
- 日本整形外科学会認定 運動器リハビリテーション医
- 日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医
- 日本フットケア学会認定 フットケア指導士
- 身体障害者福祉法第15条指定医師(肢体不自由)
- 難病指定医
- 日本整形外科学会
- 日本フットケア・足病医学会















