橈骨神経麻痺 RADIAL-NERVE-PALSY

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橈骨神経麻痺とは

橈骨神経麻痺とは、首から腕、そして指先へと繋がる重要な神経の一つである「橈骨神経(とうこつしんけい)」が、圧迫されたり傷ついたりすることで、腕から手首、指先にかけて運動障害や感覚障害(しびれ)が生じる疾患です。

人間の腕には、大きく分けて「正中神経(せいちゅうしんけい)」「尺骨神経(しゃっこつしんけい)」「橈骨神経」という3つの主要な神経が走っています。その中で橈骨神経は、二の腕の裏側(上腕三頭筋)から肘の外側を通り、前腕(肘から手首までの部分)の親指側を通って手の甲へと伸びています。

この橈骨神経は、主に「手首を上に反らす(背屈)」「指を真っ直ぐに伸ばす」「手の甲の感覚を感じる」という非常に重要な役割を担っています。そのため、この神経が何らかの理由でダメージを受けると、ダメージを受けた部位よりも先の部分に命令が伝わらなくなり、手首や指を持ち上げることができなくなってしまいます。

ダメージを受ける(圧迫される)場所によって症状の出方が少し異なり、二の腕のあたりで圧迫されると手首も指も上がらなくなる「下垂手(かすいしゅ:Drop hand)」となり、肘のあたりで圧迫されると手首は上がるものの指の付け根が伸びなくなる「下垂指(かすいし:Drop finger)」と呼ばれる状態になります。

症状

CONSULTATION

  • 手首が上がらずだらんと垂れ下がる(下垂手)
  • 指が真っ直ぐに伸びない(下垂指)
  • 手の甲側のしびれ
  • 物をうまく掴めない、握力が落ちる
  • 手首や指に疲労感を感じる
  • 細かい指先の作業(巧緻運動)が困難になる

など

原因

睡眠時の不自然な圧迫(サタデーナイト症候群・ハネムーン症候群)

最も多い原因です。泥酔してソファの肘掛けに腕を乗せたまま長時間寝込んでしまったり、硬い床に腕を敷いて寝てしまったりすることで、二の腕の骨(上腕骨)と硬い床の間に橈骨神経が強く挟み込まれ、神経への血流が途絶えて麻痺を起こします。週末の夜に酔っ払って発症することが多いため「サタデーナイト症候群」、恋人に腕枕を長時間したまま寝てしまって発症することを「ハネムーン症候群」と呼ぶこともあります。

骨折などの外傷‌

交通事故や転倒などにより、二の腕の骨(上腕骨骨幹部)を骨折した際、折れた骨の破片がすぐそばを走る橈骨神経を傷つけたり、巻き込んだりすることで麻痺が発生します。

外部からの持続的な圧迫(松葉杖など)

ケガなどで松葉杖を使用する際、正しい使い方をせず、脇の下に体重をかけ続けてしまうと、脇の下を通る神経が圧迫されて麻痺を引き起こすことがあります。

筋肉やガングリオンによる絞扼(こうやく)

肘の少し下あたり(回外筋という筋肉のトンネル部分)で、筋肉の使いすぎによる肥厚や、ガングリオンと呼ばれる良性のゼリー状の腫瘤(しゅりゅう)が神経を圧迫し、「後骨間神経麻痺(こうこっかんしんけいまひ)」という指だけが伸びなくなる症状を引き起こすこともあります。

診断

朝起きて「手が動かない」「手がしびれる」とパニックになってご来院される患者さまに対し、まつもと整形外科ではそれが脳の異常(脳卒中など)によるものか、末梢神経(橈骨神経)の異常によるものかを正確に見極める診断を行います。

まずは問診にて、「昨晩はお酒を飲んで寝ていないか」「腕枕など不自然な姿勢で寝ていなかったか」「寝起きに症状を自覚したのか」など、発症時のエピソードを詳しくお伺いします。

続いて、神経学的検査(身体所見の確認)を行います。

ティネルサイン(Tinel徴候)の確認

神経が圧迫されていると疑われる部位(二の腕の外側など)を打腱器(打診察器)や指で軽く叩き、指先に向かってビリビリと電気が走るような感覚が放散するかを確認します。

運動機能と知覚のテスト

手首を反らせるか、指を開けるかをチェックし、しびれが出ている範囲が橈骨神経の支配領域(手の甲側の親指・人差し指間)に一致しているかを確認します。

さらに、骨の異常が原因でないことを確認するためにレントゲン(X線)検査を実施します。また、ガングリオンなどの腫瘍が神経を圧迫していることが疑われる場合は、超音波(エコー)検査やMRI検査を行い、神経の周囲の軟部組織の状態を詳細に評価し、確定診断を下します。

セルフチェック

サムズアップ(いいね!のポーズ)ができますか?‌

手をグーに握った状態から、親指だけを天井に向けてしっかりと立てる「サムズアップ」のポーズを作ってみてください。橈骨神経が麻痺していると、親指を反らす筋肉が働かないため、親指をピンと立てることができません

パーの形が作れますか?‌

机の上に手のひらを下にして置き、その状態ですべての指を机から離して上に反らす(パーの形を作る)ことができるか試してください。指の付け根から持ち上がらない場合は、橈骨神経の働きが落ちているサインです。

しびれの場所の確認

反対の手の指で、痛む方の手の「手の甲側の、親指と人差し指の間の水かき部分」を触ってみてください。ここの感覚が鈍い、あるいは触るとビリビリする場合は橈骨神経領域の障害が強く疑われます。

治療

薬物療法(お薬による治療)

傷ついた末梢神経の修復を促進するために、ビタミンB12製剤(メコバラミンなど)を処方します。また、神経の炎症や痛みを伴う場合は、非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)を併用します。

装具療法(スプリント固定)

橈骨神経麻痺の治療において非常に重要なのが、ギブスや装具を用いた固定です。手首が垂れ下がった状態(下垂手)を放置すると、そのまま手首が垂れ下がったまま拘縮して関節が固まってしまう原因になります。「コックアップスプリント」と呼ばれる専用の装具を手首に装着したり、シーネで固定したりします。全例で装具やシーネを作成するわけではなく、回復までが長期化する場合に作成します。手首を軽く反らせた自然な状態に保持することで、日常生活の不便さを軽減し、筋肉の機能低下を防ぎます。

手術療法

骨折に伴って神経が完全に切れてしまっている場合や、ガングリオンなどの腫瘍が原因で圧迫を取り除く必要がある場合、あるいは保存的治療を数ヶ月続けても全く回復の兆しが見られない重症例に限っては、神経を剥離(はくり)したり縫合したりする手術が検討されます。(手術が必要な場合は、適切な高次医療機関へ責任を持ってご紹介いたします)。

リハビリ

関節可動域訓練(ストレッチ)

自力で動かせない手首や指の関節を、理学療法士が徒手(手技)によって優しく動かし、関節が硬くなるのを防ぎます。ご自宅で反対の手を使って行うセルフストレッチの方法も丁寧に指導いたします。

物理療法

神経の回復を促すために、低周波治療器などの電気刺激を用いたり、患部を温めて血流を改善させる温熱療法を行ったりします。

日常生活動作(ADL)の指導‌

装具をつけた状態での食事の摂り方、着替え方など、日常生活の質を落とさないための動作指導や工夫を、患者さまの生活様式に合わせてアドバイスいたします。

セルフケア・予防

睡眠時の姿勢に注意する

お酒をたくさん飲んだ後や、極度に疲労している時は、寝返りを打たずに長時間同じ姿勢で寝てしまう危険性が高まります。ソファの肘掛けを枕にして寝たり、自分の腕を頭の下敷きにして寝たりすることは絶対に避け、必ずベッドや布団で正しい姿勢で睡眠をとるようにしてください。

長時間の腕枕を避ける

「ハネムーン症候群」の名の通り、パートナーに腕枕をしたまま長時間同じ体勢で過ごすことは、橈骨神経を強く圧迫する原因となります。適度に腕を抜き、姿勢を変えることが大切です。

患部を温めて血流を良くする

現在治療中の方は、神経の回復に必要な酸素と栄養を届けるため、患部を冷やさないようにしてください。入浴時に湯船にしっかり浸かって全身を温めることは、回復を早めるための良いセルフケアとなります。

焦らず関節を動かし続ける

神経が回復するまでには時間がかかります。焦って無理に力を入れようとするのではなく、「反対の手で手首を反らせる」「指を真っ直ぐに伸ばしてあげる」といった他動的なストレッチを、毎日コツコツと続けることが大切です。

Q&A

Q

どのくらいの期間で元の通りに動くようになりますか?

A

神経の圧迫の程度によって大きく異なります。軽度の圧迫(一時的な血流障害)であれば、数週間から1ヶ月程度で徐々に動くようになることが多いです。しかし、神経の損傷が強い場合は、神経は1日に約1ミリという非常にゆっくりとしたスピードでしか伸びて修復されないため、完治するまでに3ヶ月から半年、あるいはそれ以上の長期間を要することもあります。

Q

脳卒中(脳梗塞など)による麻痺との見分け方はありますか?

A

脳卒中の場合、腕や手首だけでなく、同じ側の「足」も動かしにくくなったり、顔の半分がたるんで表情が作れなくなったり、言葉がうまく出ない(ろれつが回らない)といった全身的な症状を伴うことがほとんどです。「手首や指だけがピンポイントで動かない」「手の甲だけがしびれる」という場合は、脳ではなく末梢神経である橈骨神経の麻痺の可能性が高いです。ただし、少しでも不安がある場合は、迷わず医療機関を受診してください。

Q

早く治すために、しびれている部分を強くマッサージしてもいいですか?

A

自己判断での強いマッサージは避けてください。神経がダメージを受けて過敏になっている状態の時に、強い力で揉みほぐすと、逆に神経の炎症を悪化させて回復を遅らせてしまう恐れがあります。マッサージよりも、反対の手を使って手首や指の関節を「ゆっくりとストレッチして伸ばしてあげる」ことの方が、拘縮予防として重要です。

Q

麻痺している間は、仕事や家事は休んだ方が良いのでしょうか?‌

A

必ずしもすべて休む必要はありません。装具(コックアップスプリント)を作成して手首を固定することで、指の曲げ伸ばしがしやすくなり、ある程度の軽作業やパソコン入力などの仕事は可能になることが多いです。まつもと整形外科では、患者さまのライフスタイルに合わせて、無理のない範囲で仕事や家事を続けるためのサポートとアドバイスを行います。

Q

手術をしないと治らないケースはどのような場合ですか?‌

A

骨折によって神経が骨の間に挟まり込んでいる場合や、神経そのものが切断されてしまっている場合、またガングリオンなどの明らかな腫瘍が神経を圧迫し続けている場合は、手術による除去や修復が必要です。それ以外(寝相などの圧迫)で発症した場合は、数ヶ月間保存的治療とリハビリを続けても全く回復の傾向が見られない場合に、初めて神経の手術を検討することになります