リウマチ性多発筋痛症(PMR)とは

リウマチ性多発筋痛症(Polymyalgia Rheumatica、通称:PMR)とは、主に50歳以上の中高年(特に60歳〜70歳代の女性にやや多い)に発症し、首、肩、お尻、太ももといった「身体の中心に近い大きな筋肉」の周囲に、急激な強い痛みとこわばりが生じる炎症性の疾患です。
病名に「筋痛症」とついていますが、実際に筋肉の細胞そのものが壊れたり、筋肉の病気が起きたりしているわけではありません。最新の医学研究により、痛みの本当の原因は、肩や股関節の周囲にある「滑液包(かつえきほう)」という関節をスムーズに動かすためのゼリー状の袋や、腱(スジ)の周囲に強い炎症が起こる「滑液包炎(かつえきほうえん)」や「腱鞘炎(けんしょうえん)」であることが分かっています。
また「リウマチ性」と名前がついていますが、関節の骨や軟骨が破壊されて変形してしまう一般的な「関節リウマチ」とは全く異なる病気です。突然発症し、適切な治療薬(ステロイド薬)を使用することで数日のうちに嘘のように痛みが消えるという、非常に特徴的な経過をたどります。
症状
両側の肩・首・お尻・太ももにかけての激しい痛みとこわばり
最も特徴的な症状です。片側だけでなく「左右両側」の肩や二の腕、首すじ、あるいはお尻から太ももにかけて、強い筋肉痛のような痛みが生じます。特に朝起きた時の症状が最も強く、身体がガチガチに固まって動かせない「朝のこわばり」が数十分から数時間続きます。「布団から自力で起き上がれない」「寝返りを打つだけで痛みが走る」といった極めて辛い状態になることが少なくありません。
日常生活動作(ADL)の著しい低下
肩や股関節周囲の炎症により、関節を動かすことが困難になります。「五十肩(肩関節周囲炎)」と間違われやすいですが、五十肩が片側の肩だけに起こることが多いのに対し、この病気は両側に同時に起こります。「痛くてバンザイができない」「上着を着たり脱いだりできない」「しゃがんだ姿勢から立ち上がれない」「トイレの便座から立ち上がるのが辛い」といったように、当たり前にできていた日常の動作が急激にできなくなってしまいます。
全身の強い炎症症状
単なる関節や筋肉の病気ではなく、免疫の異常による全身性の炎症疾患であるため、痛みに加えて全身の不調を伴うのが大きな特徴です。37度台の微熱が続く、身体に鉛が入ったようにだるい(倦怠感)、食欲が全く湧かない、数ヶ月で体重が数キロ減少した、気分がひどく落ち込む(抑うつ状態)といった症状が現れます。これらの症状により、「何か悪いがん(悪性腫瘍)になってしまったのではないか」と強い不安を抱えて来院される患者さまが多くいらっしゃいます。
原因
現在のところ、リウマチ性多発筋痛症が「なぜ発症するのか」という根本的な原因は、完全には解明されていません。しかし、加齢に伴う免疫システムの異常(自己免疫疾患の一種)が深く関与していると考えられています。
本来、身体を外敵(ウイルスや細菌)から守るはずの免疫細胞が、加齢や何らかの環境要因(ウイルスの感染、過度なストレスなど)をきっかけに暴走し、自分自身の関節の周囲にある組織(滑液包や関節包など)を誤って攻撃してしまうことで、全身に強い炎症を引き起こします。
この免疫の暴走により、血液中に「炎症性サイトカイン(インターロイキン-6など)」という炎症を引き起こす物質が大量に放出されるため、筋肉周辺の激しい痛みだけでなく、微熱やだるさといった全身症状が引き起こされるのです。年齢を重ねた免疫システムの変化が背景にあるため、50歳未満の若い方に発症することは極めて稀です。
診断
詳細な問診と血液検査(炎症反応の確認)
まずは血液検査を行い、体内の炎症の強さを示す「白血球」の数や「CRP(C反応性タンパク)」という数値を調べます。リウマチ性多発筋痛症の患者さまでは、これらの炎症反応が極めて高い異常値を示します。また、症状が似ている関節リウマチを見分けるために、「リウマチ因子(RF)」や「抗CCP抗体」といった関節リウマチの検査も同時に行い、これらが陰性(正常)であることをしっかりと確認して鑑別を行います。
ステロイド薬による「診断的治療」
血液検査や臨床症状でこの病気が強く疑われた場合、少量のステロイド薬を実際に内服していただくことがあります。リウマチ性多発筋痛症であれば、ステロイド薬を内服して数日以内に「嘘のように痛みが消える」という劇的な効果が現れます。この魔法のような著効(効き目)そのものが、最終的な確定診断の重要な決め手となります。
セルフチェック
「急に肩が痛くなった」「だるくて起き上がれない」という時、ご自宅で確認できるセルフチェックリストです。
☑️ 50歳以上(特に60歳〜70歳代)である。
☑️ 最近2週間以内の間に、ある日突然症状が現れた。
☑️ 左右両側の肩や首、または太ももからお尻にかけて、強い痛みとこわばりがある。
☑️ 朝起きた時が一番痛く、身体が固まって起き上がるのに時間がかかる(45分以上続く)。
☑️ 腕が上がらず上着が着られない、または痛くて寝返りが打てない。
☑️ 微熱(37度台)や、原因不明の強いだるさ、食欲不振が続いている。
治療
ステロイド薬による薬物療法

中等量(1日10mg〜20mg程度)のステロイド薬を内服し始めると、早ければ翌日〜数日以内に「今までの激痛は何だったのか」と思うほど劇的に症状が改善します。痛みが取れたからといって自己判断で薬をやめると必ず再発するため、医師の指示のもとで数週間〜数ヶ月ごとに1ミリグラム単位で少しずつ薬の量を減らしていく(漸減:ぜんげん)ことが極めて重要です。完全に薬をやめる(離脱する)までには、通常1年〜2年程度の時間をかけて慎重に治療を継続します。
ステロイドの副作用に対する予防(骨粗鬆症対策)
ステロイド薬は非常に有効な治療薬ですが、一定量(目安として1日5mg以上)を3ヶ月以上にわたって内服するようなケースでは、ガイドライン上「骨粗鬆症(骨がスカスカになる病気)」のリスクに配慮する必要があるとされています。世界基準の高精度なDEXA(デキサ)骨密度測定装置を用いて定期的に骨の状態を正確に確認します。長期の内服が必要な場合でも、ガイドラインに沿って骨粗鬆症の予防薬を適切に併用し、将来の骨折を未然に防ぐ安全な治療計画を立ててまいります。
リハビリ
関節可動域の回復と、筋肉の緊張をほぐす徒手療法
激しい痛みのために数週間、肩や股関節を動かさない状態が続いたことで、関節の周囲が硬く固まり(拘縮:こうしゅく)、筋肉も過度に緊張して血流が悪くなっています。理学療法士が、こわばった筋肉を心地よくほぐす徒手的なアプローチ(マッサージ的な施術)を丁寧に行いながら、痛みのない範囲でゆっくりとストレッチを行います。これにより、上着の着替えや棚の上の物を取るような腕を高く上げる動作、そして負担のないスムーズな立ち上がり動作を取り戻せるよう、患者さまのペースに合わせてサポートいたします。
筋力低下の予防と日常生活への復帰支援
全身の強い炎症と長期間の活動量低下により、どうしても全身の筋肉量や体力が落ちてしまっています。患者さま一人ひとりの現在の筋力やその日の体調を専門的な視点で細やかに確認しながら、ベッドの上やご自宅でも安全に取り組める筋力トレーニング(軽いゴムチューブを用いた運動など)を指導し、焦らず確実に元の生活レベルへ復帰できるよう全面的に後押しします。
セルフケア・予防
リウマチ性多発筋痛症の発症そのものを完全に予防する方法は現在のところありません。しかし、治療中(ステロイド内服中)に症状を再発させず、安全に過ごすためのセルフケアが極めて重要です。
自己判断での薬の中断や減量
「痛みがすっかり無くなったから」「ステロイドの副作用が怖いから」と、患者さまご自身の判断で急に薬を飲むのをやめたり、量を減らしたりすることは絶対に避けてください。急激に薬をやめると、病気が激しく再発(再燃)するだけでなく、「副腎不全」という命に関わる危険な状態を引き起こす恐れがあります。薬の調整は必ず医師の指示に従ってください。
感染症への予防対策
ステロイド薬を内服している間は、免疫力が少し低下するため、風邪などの感染症にかかりやすくなります。手洗い、うがい、人混みでのマスク着用といった基本的な感染予防策を日常生活の中で徹底してください。
骨を強くする食事と適度な運動
ステロイドによる骨粗鬆症を予防するため、カルシウムやビタミンD(鮭、きのこ類など)、ビタミンK(納豆、青菜など)を豊富に含むバランスの良い食事を心掛けてください。また、無理のない範囲でのウォーキングは、骨に適切な刺激を与えて骨を強くする効果があります。
よくある質問
「関節リウマチ」とは何が違うのですか?名前が似ていて不安です。
名前は似ていますが、全く異なる病気ですのでご安心ください。「関節リウマチ」は、手首や指先の小さな関節を中心に炎症が起き、放置すると軟骨や骨が破壊されて関節が変形してしまう病気です。一方、「リウマチ性多発筋痛症」は、肩や太ももといった大きな筋肉の周囲に炎症が起きますが、関節の骨が破壊されたり変形したりすることはありません。また、血液検査でリウマチ因子が陰性であることや、ステロイド薬が劇的に効くことも大きな違いです。
五十肩だと思って放置していました。五十肩との見分け方はありますか?
五十肩(肩関節周囲炎)は、通常どちらか「片方の肩」だけに痛みが起こり、微熱や全身のだるさ、体重減少といった全身症状を伴うことはありません。一方、リウマチ性多発筋痛症は「左右両方の肩」が同時に痛くなり、朝の強いこわばりや微熱などを伴います。また、五十肩にはステロイド薬の飲み薬を使うことは通常ありません。「両肩が痛くて腕が上がらない」「微熱が続く」場合は五十肩ではない可能性が高いため、早めに当院へご相談ください。
ステロイド薬は副作用が怖いと聞きます。一生飲み続けなければならないのですか?
いいえ、一生飲み続けるわけではありません。リウマチ性多発筋痛症に対するステロイド薬は、初期に中等量を使用し、痛みが消えたら数ヶ月〜1年以上かけて、数ミリグラムずつ非常にゆっくりと慎重に量を減らしていきます。最終的には多くの方がステロイド薬を完全に中止(離脱)することができます。
監修
経歴
- 済生会福岡総合病院
- 製鉄記念八幡病院
- 福岡市民病院
- 九州大学病院
- 九州医療センター
- 福岡赤十字病院
- 済生会八幡総合病院
- 福岡青洲会病院
資格・所属学会
- 日本整形外科学会 専門医(日本専門医機構)
- 日本整形外科学会認定 運動器リハビリテーション医
- 日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医
- 日本フットケア学会認定 フットケア指導士
- 身体障害者福祉法第15条指定医師(肢体不自由)
- 難病指定医
- 日本整形外科学会
- 日本フットケア・足病医学会















