ジョーンズ骨折とは

ジョーンズ骨折とは、足の小指の付け根からかかとに向かって伸びる長い骨(第5中足骨:だいごちゅうそくこつ)の根元に近い部分に生じる「疲労骨折」のことです。イギリスの整形外科いであるロバート・ジョーンズが、ダンス中に自分自身がこの部位を骨折し、1902年に論文として報告したことからその名が付けられました。
通常の骨折が、転倒や強い衝撃などの「1回の大きな力」で骨が折れるのに対し、疲労骨折は、走る・跳ぶといった動作によって「小さな力が同じ骨に何度も繰り返し加わる」ことで、金属疲労のように骨にヒビが入り、進行すると完全に折れてしまう状態を指します。

このジョーンズ骨折において最も注意すべき医学的な特徴は、「非常に治りにくい(難治性である)」そして「再発しやすい」という点です。
なぜ治りにくいのかというと、骨折が起こる第5中足骨の根元付近は、解剖学的に「血液の巡り(血流)が非常に乏しいエリア」だからです。骨が修復するためには、血液によって運ばれる豊富な栄養と酸素が不可欠ですが、ジョーンズ骨折が起こる場所はこの栄養供給が滞りやすいため、骨がくっつくまでに非常に長い時間がかかってしまいます。
特に、サッカー、ラグビー、バスケットボールなど、急な方向転換(切り返し動作)やジャンプを繰り返すスポーツの競技者に多く見られ、一度発症すると長期間のプレー離脱を余儀なくされるため、スポーツ選手にとって非常に厄介で恐れられている疾患の一つです。
症状
初期:スポーツのプレー中や運動直後に感じる、足の外側の違和感と痛み
走ったり、ステップを踏んだりした時に、足の小指の付け根付近(足の外側の中央よりやや後ろ)にズキッとした痛みや重だるさを感じます。初期の段階では、運動を休んだり、日常生活で普通に歩いたりする分には痛みが引くことが多いため、「ただの捻挫だろう」「疲労が溜まっているだけだろう」と見過ごされがちです。
進行期:足の外側の腫れと、押した時のピンポイントの痛み
骨へのダメージが蓄積してヒビ(亀裂)が深くなると、足の外側がほんのりと腫れてきたり、熱を持ったりすることがあります。また、患部(小指の骨の根元付近)を指でギュッと押すと、強い痛み(圧痛)を感じるようになります。この時期になると、運動中だけでなく、運動後も痛みが長く続くようになります。スポーツのパフォーマンスが低下します。
重症期:歩行時にも痛みが続き、力強く踏み込むことができない
さらに骨折が進行して完全に骨が折れてしまったり、ヒビが大きくなったりすると、スポーツはおろか、日常生活での通常の歩行でも常に足の外側が痛み、足をかばって歩くようになります(跛行:はこう)。ジャンプやダッシュなど、足の外側に体重をかける動作が痛みのために全くできなくなり、プレーを継続することが不可能になります。
原因
動作による要因(スポーツの特性)
サッカーの素早い切り返しやステップ、ラグビーのタックル時の踏ん張り、バスケットボールのジャンプの着地など、急激にストップして方向を転換する際、人間の足は外側に強い体重(荷重)がかかります。この時、足の外側にある第5中足骨に対して、地面からの突き上げの力と、筋肉に引っ張られる力が同時に働き、骨がたわむような強いストレスが繰り返し加わります。
身体的な要因(足の形やフォーム)
骨格的に「O脚」の方や、足の甲が高い「ハイアーチ(凹足)」の方、あるいは足首が硬い方は、立っている時や走る時に、足の裏全体ではなく足の外側に体重が偏りやすい傾向があります。また、体幹の筋力が弱く、バランスを崩した際に足の外側で無理に踏ん張ってしまうような「身体の使い方の癖(フォーム不良)」も、特定の骨に負担を集中させる大きな原因となります。
環境的な要因(シューズやグラウンド)
足に合っていない窮屈なシューズや、靴底がすり減ってクッション性が失われたシューズを使用していると、足への衝撃をうまく吸収できません。特にサッカースパイクのポイント(スタッド)が第5中足骨の下に突き上げるような構造になっている場合や、人工芝やアスファルトなどの硬い地面での長時間の練習は、骨へのダメージを加速させます。
診断
詳問診と触診
「いつから痛いか」「どんな動作で一番痛むか」「練習の頻度やグラウンドの環境はどうか」を詳しく伺います。そして、足に直接触れ、どこを押すと最も痛いか(圧痛点)を丁寧に探ります。ジョーンズ骨折に特徴的な部位にピンポイントの痛みがあるかどうかは、診断の大きな手がかりになります。
X線(レントゲン)検査
骨の状態を確認する最も基本的な検査です。しかし、疲労骨折の初期段階(ごくわずかなヒビ)は、レントゲン写真には異常として写らないことが非常に多いという特徴があります。レントゲンで異常がないからといって「骨には異常なし」と安易に判断して運動を再開すると、完全に骨折してしまう危険性があります。
MRI検査
レントゲンで異常が見られない場合でも、痛みが強く疲労骨折が疑われる場合には、MRI検査が強く推奨されます。MRI検査であれば、レントゲンでは分からない骨の内部の炎症(骨髄浮腫)や、ごく微小なヒビを極めて早期の段階で鮮明に発見することができます。まつもと整形外科では、必要に応じて近隣の連携医療機関にてスムーズにMRI検査を受けていただけるよう手配いたします。
セルフチェック
ご自身の足の痛みが、単なる捻挫や筋肉痛ではなく、ジョーンズ骨折(疲労骨折)の可能性があるかどうか、ご自宅で確認できる簡単なセルフチェックリストです。
☑️ サッカー、ラグビー、バスケットボールなど、走る・跳ぶ・切り返すスポーツを熱心に行っている。
☑️ 足の外側(小指の付け根からかかとに向かって少し後ろの出っ張り付近)を押すと痛い箇所がある。
☑️ 足首を内側にひねった(捻挫した)記憶はないのに、徐々に足の外側が痛くなってきた。
☑️ 運動を始めると痛いが、休むと痛みがマシになる。しかし、最近は歩くだけでも痛みを感じるようになってきた。
☑️ 片足でつま先立ちをしたり、足の外側に体重をかけたりすると強い痛みが出る。
これらの項目に当てはまる数が多いほど、ジョーンズ骨折による骨へのダメージが進行している可能性があります。
治療
ジョーンズ骨折の治療は、「保存療法(手術をしない方法)」と「手術療法」の2つに分けられます。この骨折は血流が悪く非常に治りにくい(偽関節といって骨がくっつかなくなるリスクが高い)ため、患者さまのスポーツレベル、年齢、試合までの期間、そして骨折の進行度合いを総合的に判断し、最適な治療方針をご提案いたします。
1. 保存療法(症状が初期で、長期間の安静が保てる場合)
◯免荷(めんか)と固定
ギプスや専用の装具で足を固定し、松葉杖を使用して「患部に全く体重をかけない(免荷)」期間を長期間(約6〜8週間以上)設けます。体重をかけてしまうと骨がくっつかないため、徹底した安静が求められます。
◯超音波骨折治療法(LIPUS)
治りにくいジョーンズ骨折に対して、極めて有効な治療法です。専用の機器を用いて、微弱な超音波を1日20分間患部にあてることで、骨を形成する細胞を刺激し、骨がくっつくまでの期間を約4割短縮させる効果が期待できます。
2. 手術療法(完全骨折、早期復帰希望、トップアスリートの場合)
骨折が大きい場合、保存療法で治らなかった場合、あるいはアスリートとして「少しでも早く確実にスポーツに復帰したい」「再発を防ぎたい」と希望される場合は、手術療法が第一選択となります。
髄内釘固定術(ずいないていこていじゅつ): 足の小指の付け根から、チタン製の特殊なスクリュー(ネジ)を骨の真ん中の空洞(髄腔)に挿入し、骨折部を内側から強固に固定する手術です。
手術を行うことで、骨が癒合する(くっつく)確率が飛躍的に高まり、保存療法に比べて早期にリハビリやスポーツ復帰を開始できるという大きなメリットがあります。手術が必要な場合は、足やスポーツの治療に特化した専門の医療機関へ責任を持ってご紹介いたします。
リハビリ
患部外トレーニング(休養期間中の体力維持)
足に体重をかけられない期間中も、体幹トレーニングや上半身の筋力トレーニング、エアロバイク(負担がかからない方法)などを理学療法士の指導のもとで行い、全身の体力や心肺機能の低下を最小限に防ぎます。
足底機能の改善と柔軟性の獲得
足の裏のアーチ(土踏まず)の機能を高めるタオルギャザー運動や、硬くなった足首の関節、ふくらはぎ、太ももの筋肉を柔軟にするストレッチを徹底的に行います。足全体で衝撃を吸収できる柔らかい足元を作ることが、足の外側への負担を減らす鍵となります。
フォームの修正と段階的な復帰
なぜ足の外側にばかり負担がかかってしまったのか、姿勢や動作の癖(身体の使い方のエラー)を見直し、正しい体重移動を身体に覚え込ませます。ジョギングから始まり、ダッシュ、方向転換、ジャンプと、患部の状態を確認しながら段階的にスポーツ復帰(Return to Sports)へと導きます。
セルフケア・予防
足に合ったシューズ選びとインソール(中敷き)の活用
サイズの合わない靴や、すり減ったスパイクは買い替えてください。また、足の外側に偏る体重を分散し、足のアーチを正しくサポートするために、ご自身の足型に合わせた「オーダーメイドインソール(インサート)」を使用することが、極めて有効な再発予防策となります。
練習環境の見直し(硬いグラウンドに注意)
アスファルトや硬い土のグラウンドでの長時間のランニングや練習は、足への衝撃を増大させます。可能な限り芝生のグラウンドを選んだり、硬い場所での練習時間を調整したりするなど、環境面での負担軽減を図ってください。
入念なウォーミングアップとクールダウン
運動前には足首やふくらはぎのストレッチを十分に行い、関節の可動域を広げておきます。運動後は、疲労した足底腱膜(足の裏の筋肉)をゴルフボールなどで優しくマッサージし、筋肉の柔軟性を保ち、疲労を翌日に持ち越さないケアを習慣づけましょう。
Q&A
整形外科で「レントゲンでは異常がない」と言われましたが、走ると足の外側が痛いです。どうすればいいですか?
疲労骨折の初期段階は、レントゲン写真にヒビが写らないことが非常に多くあります。そのため、レントゲンで異常がないからといって痛みを我慢して走り続けると、骨折が進行して取り返しのつかない状態になる危険性があります。痛みが続く場合はMRI検査で骨の内部の炎症(骨髄浮腫)を確認する必要がありますので、放置せずにまつもと整形外科へご相談ください。
手術をせずに、ギプス固定などの保存療法だけで完全に治すことはできますか?
保存療法で治すことは可能ですが、ジョーンズ骨折の部位は血流が悪いため、完全に骨がくっつくまでに数ヶ月という非常に長い時間がかかります。また、保存療法は手術に比べて「偽関節(骨がくっつかずにグラグラ残ってしまう状態)」になるリスクや、スポーツ復帰後に再発するリスクが高いという難点があります。スポーツへの早期復帰を目指す方には、手術療法をお勧めすることが多くなります。
ジョーンズ骨折からスポーツに完全復帰できるまで、どれくらいの期間がかかりますか?
骨折の程度や治療法(手術か保存か)によって異なりますが、一般的に手術療法を選択した場合でも、ランニングの開始まで約6〜8週間、スポーツへの完全復帰(競技レベルでのプレー)までには2〜3ヶ月程度かかることが多いです。保存療法の場合はさらに長く、3〜6ヶ月以上を要することもあります。焦って復帰すると再発のリスクが高まるため、理学療法士と相談しながら計画的にリハビリを進めることが重要です。 1
監修
経歴
- 済生会福岡総合病院
- 製鉄記念八幡病院
- 福岡市民病院
- 九州大学病院
- 九州医療センター
- 福岡赤十字病院
- 済生会八幡総合病院
- 福岡青洲会病院
資格・所属学会
- 日本整形外科学会 専門医(日本専門医機構)
- 日本整形外科学会認定 運動器リハビリテーション医
- 日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医
- 日本フットケア学会認定 フットケア指導士
- 身体障害者福祉法第15条指定医師(肢体不自由)
- 難病指定医
- 日本整形外科学会
- 日本フットケア・足病医学会















