デュピュイトラン拘縮(こうしゅく)とは

デュピュイトラン拘縮とは、手のひらの皮膚の下にある「手掌腱膜(しゅしょうけんまく)」という組織が異常に分厚く硬くなり、次第に収縮していくことで、指が引っ張られて曲がったまま伸びなくなってしまう病気です。19世紀のフランスの外科医、ギヨーム・デュピュイトランによって詳細に報告されたことからこの名が付けられました。
人間の手のひらの皮膚の下には、指を動かすための「腱(けん)」や「神経」「血管」を保護し、物を強く握るためのクッションと補強の役割を果たす「手掌腱膜」という丈夫な膜が扇状に広がっています。デュピュイトラン拘縮では、この腱膜を構成する細胞(線維芽細胞)が異常に増殖し、コラーゲン線維が過剰に蓄積してしまいます。
初期の段階では、手のひらにタコのような硬い「しこり(結節)」ができるだけですが、病状が進行すると、このしこりが指先に向かって「ひも状(索条:さくじょう)」に伸びていきます。そして、この硬いひも状の筋が年月とともにギュッと縮んでいくことで、指の関節が内側に引っ張られ、自力でも、他人が反対の手で無理に引っ張っても指が真っ直ぐに伸びなくなってしまいます(この状態を「屈曲拘縮」と呼びます)。
中高年の男性(特に50代〜60代以上)に圧倒的に多く発症し、両手に症状が出ることも少なくありません。また、腱(スジ)そのものが切れたり癒着したりしているわけではないため、「指を曲げること(握ること)」は通常通りできるのが特徴です。
症状
手のひらに硬い「しこり」や「ひも状の出っ張り」がある
手のひらの皮膚の下に、タコやマメのような硬い結節(しこり)を触れます。進行すると、そのしこりから指先に向かって、皮膚が引きつれたような硬いひも状の筋(索条)が浮き出てきます。多くの場合、押しても痛みはありません。
指が手のひら側に引っ張られ、つっぱって自力で伸ばせない
ひも状の組織が縮むにつれて、指の関節が曲がっていきます。「指がつっぱる」「指が動かない」という自覚症状が現れ、反対の手で無理に伸ばそうとしても、硬いゴムに引っ張られているように反発して真っ直ぐになりません。
指が伸びないことで、日常生活の何気ない動作に大きな支障が出る
指が曲がって固まってしまうため、顔を洗う時に指先が目に突き刺さる、ズボンのポケットに手を入れると指が引っかかる、手袋やゴルフのグローブが入らない、拍手がうまくできない、机の上に手をペタンと平らにつけないなど、生活の質(QOL)を著しく低下させる不便さが生じます。
原因
デュピュイトラン拘縮の根本的な原因は、現代の医学をもってしても完全には解明されていません。しかし、手掌腱膜の異常な線維化を引き起こす「いくつかの強いリスク要因」は明らかになっています。
遺伝的要因と体質
この病気は白人(特に北欧系の人々)に非常に多く、「バイキングの病気」とも呼ばれていましたが、日本人にも一定の割合で発症します。家族内に同じ症状を持つ方がいる場合、発症リスクが高まることが分かっており、遺伝的な体質が強く関与していると考えられています。
加齢と性別
圧倒的に中高年(50歳以上)の男性に多く発症します。加齢に伴う細胞のターンオーバーの変化や、ホルモンバランスなどが手掌腱膜の線維化に関わっていると推測されています。
全身疾患(糖尿病など)の影響
糖尿病の患者さまは、デュピュイトラン拘縮を合併するリスクが健康な人の数倍高いことが知られています。高血糖状態が長く続くことで組織の糖化が進み、コラーゲンの異常な架橋(硬くなること)を引き起こすためと考えられています。また、肝疾患がある方にも発症しやすい傾向があります。
生活習慣(アルコールと喫煙)
長年の大量のアルコール摂取や喫煙の習慣は、血流の悪化や肝機能への影響を通じて、発症リスクを上昇させることが研究で示唆されています。
※「手を使いすぎたから(仕事やスポーツのしすぎ)」という物理的な刺激(手への微小外傷)が直接の原因になるかどうかについては、賛否両論ありますが、主たる原因は体質と全身的な要因にあると考えられています。
【ちょっとした豆知識】なぜ「バイキングの病気」と呼ばれるの?
デュピュイトラン拘縮についてインターネットなどで調べると、「バイキングの病気」という不思議な別名を目にすることがあります。
実はこの病気、スウェーデンやノルウェーといった北欧系の白人男性に非常に多く発症します。かつて8世紀〜11世紀にかけて、北欧の海賊であり交易民でもあった「バイキング」が船でヨーロッパ各地へ遠征・移住しました。現代の世界地図でこの病気が多く発生している地域を調べると、見事に「バイキングが移動・定住したルート」と重なるため、医学界では長年「バイキングたちが遺伝子を広めた」と考えられ、この別名が定着しました。(最近では、さらに古いネアンデルタール人の遺伝子が関与しているという興味深い研究も発表されています)。
「北欧の血が入っていない日本人になぜ起こるの?」と疑問に思われるかもしれませんが、遺伝子の変化に加え、加齢や糖尿病といった後天的な要因が複雑に絡み合うため、純粋な日本人にも一定の割合で発症します。
診断
詳細な視診と触診
手のひらを直接観察し、皮膚の引きつれ、硬い結節(しこり)、索条(ひも状の硬結)があるかを確認します。デュピュイトラン拘縮のしこりは皮膚と癒着しているのが特徴です。また、「ばね指(弾発指)」との鑑別が重要です。ばね指は指の付け根を押すと痛く、曲げ伸ばしの際に「カックン」という引っかかりがありますが、デュピュイトラン拘縮は基本的に無痛で、カックンという現象は起きません。
関節可動域の測定
指の付け根の関節(MP関節)や、第2関節(PIP関節)が「何度まで曲がってしまっているか(伸びない角度)」を分度器のような専用の器具(ゴニオメーター)で正確に測定します。
画像検査(レントゲンや超音波検査)
指が曲がっている原因が、関節自体の変形やリウマチ、骨の異常ではないことを確認するためにX線(レントゲン)検査を行います。また、エコー(超音波)検査を用いて、皮下のしこりの状態や、神経・血管との位置関係を確認することもあります。
セルフチェック
ご自身の手のひらのしこりや、指が伸びない症状がデュピュイトラン拘縮の可能性があるかどうか、ご自宅で簡単に確認できる世界共通のテスト(ヒューストンのテーブルトップ・テスト)をご紹介します。
【テーブルトップ・テスト(机上テスト)】
①平らな机やテーブルを用意します。
②症状がある方の手のひらを下に向け、机の上に置きます。
③手のひらとすべての指を、机の表面に隙間なく「ペタン」と平らにつけることができるか確認してください。
○陰性(正常): 手のひらも指も、机にぴったりと平らにつく。
○陽性(拘縮あり): 指が曲がって浮いてしまい、手のひら全体を机に密着させることができない(手のひらと机の間にボールペンなどが入る隙間ができる)。
このテストが「陽性」となり、なおかつ手のひらに硬いしこりや筋を触れる場合は、デュピュイトラン拘縮が進行しているサインです。
治療
デュピュイトラン拘縮の治療は、症状の進行度(指の曲がり具合)によって異なります。残念ながら、飲み薬や塗り薬で一度硬くなった腱膜を元の柔らかい状態に戻すことはできません。
保存療法(経過観察)
指の曲がり角度が軽く(30度未満)、日常生活にそれほど支障がない場合は、定期的に診察を行いながら「経過観察」とします。しこりに痛みを伴う珍しいケースでは、ステロイド注射を行って炎症と痛みを和らげることがありますが、注射で指の曲がり(拘縮)自体を治すことはできません。
※【補足】過去には、硬くなった索条に酵素(コラゲナーゼ)を注射して溶かす「注射療法(ザイアフレックス)」が国内で行われていましたが、現在は製薬会社の事業上の理由により日本国内での販売が中止されています。そのため、進行した場合は「手術」が第一選択となります。
手術療法
指の付け根(MP関節)が30度以上曲がってしまった場合や、第2関節(PIP関節)に拘縮が及んで「指が動かない」ことで日常生活に明らかな支障が出ている場合は、手術が検討されます。
○腱膜切除術(けんまくせつじょじゅつ)
最も一般的に行われる根治的な手術です。手のひらの皮膚をジグザグに切開し、指を引っ張っている原因である「異常に硬くなった手掌腱膜」を神経や血管から丁寧に剥がして切り取ります。原因組織を取り除くため、再発率を低く抑えることができます。
○経皮的腱膜切離術(けいひてきけんまくせつりじゅつ)
皮膚を大きく切開せず、特殊な針を皮膚の外から刺して、突っ張っている腱膜の筋(索条)を複数箇所でプツプツと切断し、指を伸ばす方法です。体への負担は少なく日帰りでも可能ですが、原因組織が残るため再発率が比較的高いというデメリットがあります。
※手術が必要と判断した場合は、手の外科を専門とする連携医療機関へ責任を持ってご紹介します。
リハビリ
装具療法(スプリントの着用)
手術で指が真っ直ぐになった状態を維持するため、プラスチックなどでできた「伸展位固定装具(スプリント)」を作成します。特に夜間就寝中に指が再び曲がってしまうのを防ぐため、術後数ヶ月間は夜間装具の装着を徹底していただきます。
可動域訓練とストレッチ
傷口の治癒状態を見極めながら、理学療法士が指の関節をゆっくりと伸ばし、同時に「指をしっかり曲げて握り込む」訓練も行います。手術の侵襲によって関節が硬くなるのを防ぐため、早期からの計画的な運動療法が不可欠です。
瘢痕(はんこん)の管理
手のひらの手術創(傷跡)が硬く引きつれてしまうと、それが新たな「つっぱり感」の原因になります。傷口が塞がった後は、傷跡の皮膚を柔らかく保つためのマッサージやテーピング指導などを丁寧に行い、指が動かない状態に後戻りさせないよう、全身のバランスや身体の使い方を含めて根本から整えます。
セルフケア・予防
デュピュイトラン拘縮は、はっきりとした原因が不明であり、体質や遺伝が関与しているため、「これをすれば絶対に予防できる」という確実な方法はありません。しかし、進行を緩やかにし、日常生活での支障を減らすためのセルフケアは存在します。
基礎疾患(糖尿病)の徹底的なコントロール
糖尿病をお持ちの方は、血糖値が高い状態が続くと組織の糖化が進み、腱膜の線維化(硬化)が急速に悪化しやすくなります。かかりつけの内科医の指導のもと、血糖コントロールを厳密に行うことが、指の変形を防ぐ最も有効な内科的アプローチです。
過度なアルコール摂取と喫煙を控える
肝機能への悪影響や末梢の血流障害は、発症や進行の大きなリスクとなります。禁煙に努め、アルコールは適量を守ることが手の健康維持にも繋がります。
【要注意】痛いほど無理に引っ張らない
「指がつっぱるから」と焦って、ご自身で反対の手を使って力任せに指を伸ばそうとしたり、強引なマッサージをしたりするのは逆効果です。組織に微小な損傷(ケガ)を与えてしまい、それを修復しようとする反応によって、かえって線維化(硬くなること)を加速させてしまう恐れがあります。ストレッチをする場合は、入浴中などに「痛みを感じない程度の心地よい力」で優しく伸ばす程度に留めてください。
Q&A
手のひらのしこりを押しても痛くありません。悪性のガン(腫瘍)ではないかと心配です。
手のひらにできる無痛性のしこりで、徐々に指が引っ張られてくる場合は、ほぼデュピュイトラン拘縮の初期症状であり、良性の線維組織の増殖ですので、悪性腫瘍(ガン)ではありません。しかし、急激に大きくなったり、痛みを伴ったり、出血したりするような場合は別の軟部腫瘍の可能性もありますので、自己判断で放置せず、まずはまつもと整形外科で正確な診断を受けることをお勧めします。
手術はしたくないのですが、薬や注射、マッサージだけで治すことはできますか?
残念ながら、デュピュイトラン拘縮で一度形成されてしまった強固なひも状の組織(索条)を、飲み薬や塗り薬、あるいはマッサージだけで元の柔らかい状態に戻すことはできません。また、過去に行われていたコラゲナーゼ注射薬は現在国内で販売終了となっているため、指の曲がりが30度を超え「指が動かない」ことで生活に支障が出ている場合は、手術(腱膜を切除・切離する物理的な処置)が唯一の根本的な解決策となります。
手術をすれば完全に治り、二度と指が曲がることはありませんか?
デュピュイトラン拘縮は、体質や遺伝的な要素が強く関わる病気であるため、手術で異常な腱膜を取り除いても、数年後に同じ場所や別の指に「再発」する可能性がゼロではありません。そのため、「手術をして終わり」ではなく、術後の夜間装具の着用をしっかりと継続し、理学療法士と二人三脚でリハビリテーションを行うことが、再発を防ぎ良い状態を長く保つための最大の鍵となります。
監修
経歴
- 済生会福岡総合病院
- 製鉄記念八幡病院
- 福岡市民病院
- 九州大学病院
- 九州医療センター
- 福岡赤十字病院
- 済生会八幡総合病院
- 福岡青洲会病院
資格・所属学会
- 日本整形外科学会 専門医(日本専門医機構)
- 日本整形外科学会認定 運動器リハビリテーション医
- 日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医
- 日本フットケア学会認定 フットケア指導士
- 身体障害者福祉法第15条指定医師(肢体不自由)
- 難病指定医
- 日本整形外科学会
- 日本フットケア・足病医学会















