鼠径部痛症候群(グロインペイン症候群)|久留米の整形外科|まつもと整形外科【西鉄安武駅徒歩2分】

鼠径部痛症候群(グロインペイン症候群) GROIN-PAIN-SYNDROME

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鼠径部痛症候群(グロインペイン症候群)とは

鼠径部痛症候群(グロインペイン症候群)とは、太ももの付け根の前側(鼠径部:そけいぶ)や下腹部、恥骨(ちこつ:股間の硬い骨)の周辺に慢性的な痛みが続く状態の総称です。特定の骨が折れたり、一つの筋肉だけが完全に切れたりするような「単一のケガ」ではなく、体幹(胴体)から股関節にかけての複数の筋肉や腱が、複雑に絡み合って炎症を起こしている「症候群」であることが最大の特徴です。

人間の身体は、ボールを強く蹴る動作や急激な方向転換を行う際、上半身(体幹)のひねりの力を、骨盤を通じて下半身(脚)へ伝達します。しかし、体幹の筋力が不足していたり、股関節が硬かったりすると、この「力の伝達」がスムーズに行われず、骨盤の結合部分である「恥骨」や、そこに付着している腹筋(腹直筋)、太ももの内側の筋肉(内転筋群)に過剰な負担が集中してしまいます。

この過剰な負担(ストレス)が毎日の練習で蓄積することで、筋肉の付着部が微小な損傷と炎症を繰り返し、治りきらないまま慢性的な痛みへと進行してしまうのが、鼠径部痛症候群のメカニズムです。

特にサッカー選手に圧倒的に多く発症するため「サッカー病」と呼ばれることもありますが、ラグビー、陸上競技、バスケットボール、ホッケーなど、走る・蹴る・切り返す動作が多いあらゆるスポーツで発症するリスクがあります。一度慢性化すると非常に治りにくく、スポーツへの完全復帰までに数ヶ月から半年以上を要することもあるため、早期発見と根本的な身体機能の改善が不可欠です。

症状

CONSULTATION

  • ボールを蹴る動作(インステップキックなど)で、足の付け根や下腹部に激痛が走る
  • ダッシュ、ターン、ステップなど、急激な動きをすると足の付け根が痛む
  • 朝ベッドから起き上がる時や、腹筋運動をした時に下腹部から鼠径部が痛い
  • 恥骨の周辺や、太ももの内側を指で押すとズキッとした痛みがある
  • スポーツをした翌朝、股関節周辺がガチガチに固まって脚を大きく開けない

など

原因

なぜ鼠径部に負担が集中してしまうのでしょうか。鼠径部痛症候群を引き起こす根本的な原因は、単なる「使いすぎ(オーバーユース)」だけではなく、全身の運動機能のアンバランス(協調性の欠如)にあります。これを「拘縮(硬さ)」「不安定性」「協調性低下」の3つの要素で説明できます。

股関節や体幹の柔軟性の低下(拘縮)

太ももの裏側(ハムストリングス)や前側、お尻の筋肉が硬くなると、股関節の可動域が狭くなります。ボールを蹴る際、脚が後ろに十分に引けないため、無理やり腰を反らせたり、足の付け根の力だけで蹴ろうとしたりして、鼠径部に過剰な牽引力がかかります。

体幹(コア)の筋力不足(不安定性)

腹筋群や背筋群など、胴体を支えるインナーマッスルが弱いと、キックやダッシュの衝撃を体幹で受け止めることができず、骨盤がグラグラと不安定になります。そのグラつきを、太ももの内側の筋肉(内転筋)が無理に踏ん張って止めようとするため、筋肉に負担がかかります。

全身の連動した動きの不良(協調性低下)

「手打ち」ならぬ「足蹴り」になっている状態です。上半身のひねりや体重移動をうまく脚に伝えられず、力任せに脚の筋肉だけでプレーを続けていると、一部の筋肉だけに負担が集中し、炎症を引き起こします。

休養不足と疲労の蓄積

十分なストレッチや休息をとらずに連日激しい練習を続けることで、筋肉の修復が追いつかず、微細な損傷が慢性的な炎症へと進行してしまいます。

診断

詳細な問診と触診

「どの動作で痛むか」「いつから痛いか」を詳しく伺い、実際に恥骨周辺や内転筋、腹直筋の付着部を指で押し、どこに炎症があるかを特定します。

徒手検査(機能評価)

関節の硬さを測るテストや、筋力テストを行います。特に、仰向けで両膝を立てた状態から、両膝の間にボールや拳を挟んで内側に力を入れていただくテスト(内転筋の抵抗テスト)や、腹筋運動をしていただくテストで痛みが誘発されるかを確認します。

X線(レントゲン)検査

骨の異常を確認します。鼠径部痛症候群が慢性化している場合、恥骨の結合部分に不規則な変形や骨の硬化(白く写る)が見られることがあります。また、疲労骨折や大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)など、骨の構造的な問題がないかを除外するために必須です。

MRI検査・超音波(エコー)検査

筋肉や腱の炎症、恥骨内部の骨髄浮腫(骨の中の炎症)を正確に評価するためにMRI検査は非常に有効です。また、超音波検査を用いて、筋肉の動きや炎症による血流の増加をリアルタイムで観察することができます。必要に応じてMRI検査は提携する専門医療機関へご紹介いたします。

セルフチェック

ご自身の足の付け根の痛みが、単なる一時的な筋肉痛なのか、鼠径部痛症候群の疑いがあるのか、ご自宅で確認できる簡単なセルフチェックリストです。

☑️ 仰向けに寝て、両膝の間にクッションや硬めのボールを挟み、両脚で全力でギュッと内側に押し潰すように力を入れると、足の付け根や恥骨に痛みが走る。
☑️ 仰向けに寝て、両脚をまっすぐ伸ばしたまま、かかとを床から10cmほど浮かせてキープすると、下腹部や足の付け根が痛くて維持できない。
☑️ あぐらをかく姿勢をとったり、そこから膝を床に押し付けたりすると、太ももの内側が突っ張って痛い。
☑️ 恥骨(おへそからまっすぐ下に下りた股間の硬い骨)の左右どちらかを押すと、明確な痛みがある。
☑️ ボールを使わずに、全力でボールを蹴る「素振り(シャドウ)」の動作をするだけで鼠径部が痛む。

※これらの項目に複数当てはまる場合、筋肉や腱の付着部で強い炎症が起きています。痛みを我慢して練習を続けると重症化するため、すぐにスポーツを休止し、まつもと整形外科を受診してください。

治療

鼠径部痛症候群の治療は、初期の段階で「しっかり休むこと」と「炎症を鎮めること」が最優先となります。無理をしてプレーを続けるほど治療期間は長引きます。まつもと整形外科では、現在の炎症状態に合わせて段階的な保存療法を行います。

急性期・炎症期の治療(患部の安静と鎮痛)

痛みが強い時期は、ボールを蹴る動作やダッシュなど、痛みを誘発する動作を「完全に禁止」します。ここで中途半端に動いてしまうことが、最も治りを遅らせる原因です。

◯薬物療法と物理療法
痛みが強い急性期には、まずは炎症を抑えるために非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)の飲み薬や湿布を処方します。同時に、深部の筋肉や腱の炎症を和らげ組織の修復を促す「超音波治療器」や、筋肉の過剰な緊張をほぐして痛みを緩和する「低周波治療器」「干渉波治療器」などの専門的な物理療法機器を症状に合わせて効果的に組み合わせ、患部の早期回復を強力に後押しします。

◯注射療法
痛みが非常に強く、日常生活(歩行など)にも支障が出ている場合、超音波(エコー)で痛みの原因となっている筋肉や筋膜を正確に確認しながら、少量のステロイド薬や局所麻酔薬を注射して、強力に炎症を鎮めることがあります。

手術療法について

鼠径部痛症候群は、基本的にはリハビリテーションを中心とした保存療法で改善を目指す疾患であり、手術が必要になることは稀です。しかし、数ヶ月から年単位で保存療法を行っても痛みが全く取れず、スポーツ復帰ができない一部の難治症例に対しては、手術が検討されることがあります。

リハビリ

拘縮の改善(徹底的なストレッチと徒手療法)

股関節周辺の筋肉(腸腰筋、内転筋、ハムストリングス、臀筋群)の硬さを、理学療法士の専門的な手技によって丁寧に取り除きます。股関節の可動域を正常に戻すことが、鼠径部への負担を減らす第一歩です。

体幹・骨盤の安定性向上(インナーマッスルトレーニング)

腹横筋や多裂筋といった「体幹のコルセット」となる筋肉を鍛え、骨盤のグラつきを抑えます。これにより、キック動作の際に骨盤が安定し、脚の筋肉への過剰な負担が防げます。

協調性運動(全身の連動性を高める動作訓練)

「体幹のひねり」から「骨盤の回旋」、そして「脚の振り出し」へと、上半身から下半身へスムーズに力を伝えるための動作(クロスモーション)を訓練します。手打ちならぬ「足蹴り」のフォームを修正し、鼠径部にストレスがかからない理想的なフォームを獲得させます。

セルフケア・予防

一度改善した鼠径部痛症候群を再発させないため、そして長くスポーツを楽しむためには、日々の練習前後のセルフケアが絶対条件となります。

毎日の股関節周辺の入念なストレッチ

練習後のクールダウンを疎かにしてはいけません。特に、太ももの内側(内転筋)や、脚を後ろに引く役割を持つ太ももの前側(腸腰筋や大腿四頭筋)のストレッチを、お風呂上がりなどに毎日継続して行い、筋肉の柔軟性を維持してください。

日々の体幹トレーニングの習慣化

プランクなどの基本的な体幹トレーニングを日課にしてください。体幹のブレをなくすことが、足の付け根を守る最大の予防線となります。

痛みを隠してプレーしない(早期の休養)

「少し足の付け根が張っているな」「蹴ると違和感があるな」と感じた時点で、思い切って数日間キック動作を休む勇気が必要です。この初期段階での休養が、結果的に長期離脱を防ぐ最も賢明なセルフケアです。

Q&A

Q

サッカーの試合が近いので休みたくありません。痛みを我慢してプレーを続けても自然に治りますか?

A

自然に治ることはほとんどありません。むしろ、痛みを我慢してプレーを続けることで炎症がさらに広がり、筋肉の付着部が硬く変性してしまい、最悪の場合は半年以上も競技ができなくなるほど重症化します。試合に出たい気持ちは分かりますが、将来の選手生命を守るためには、今すぐ休んで治療とリハビリに専念することが最大の近道です。

Q

鼠径部痛症候群が治るまで、どのくらいの期間がかかりますか?

A

症状の重さや、どれくらい我慢してプレーしていたかによって大きく異なります。初期の段階で適切に休養とリハビリを開始できれば、1〜2ヶ月程度で復帰できることもあります。しかし、痛みを数ヶ月放置して慢性化してしまった場合は、完全に痛みが取れて全力プレーができるようになるまで、3〜6ヶ月、あるいはそれ以上の期間を要することも珍しくありません。

Q

痛みがある期間は、ジョギングなどの運動も一切してはいけませんか?

A

痛みの出ない範囲での運動は可能です。ボールを蹴る動作やダッシュ、急な切り返し動作は厳禁ですが、患部に痛みが出ない強度のエアロバイク(自転車こぎ)や水泳、軽いジョギングなどは、長期離脱による心肺機能(体力)の低下を防ぎ、全身のコンディションを維持するための「積極的休養(アクティブレスト)」として有効です。

Q

レントゲン検査で「骨には異常がない」と言われましたが、足の付け根が痛いです。

A

鼠径部痛症候群では非常によくあるケースです。この疾患は主に筋肉や腱の炎症であるため、初期〜中期の段階ではレントゲンには異常が写りません。レントゲンで異常がないからといって「気のせい」や「仮病」ではありません。

Q

マッサージ店で太ももの筋肉を強く揉んでもらえば治りますか?

A

強いマッサージだけで根本的に治ることはありません。確かに、硬くなった筋肉をほぐすことで一時的に痛みは和らぐかもしれませんが、炎症が起きている恥骨周辺などを強く揉みすぎると、かえって炎症を悪化させる危険があります。また、根本原因である「体幹の弱さ」や「身体の使い方の悪さ」をリハビリで修正しなければ、スポーツを再開すればすぐに再発してしまいます。