変形性頚椎症とは

変形性頚椎症(へんけいせいけいついしょう)とは、長年の使用や加齢、姿勢の悪さなどが原因で、首の骨(頚椎:けいつい)や、骨と骨の間にあるクッション(椎間板:ついかんばん)がすり減り、骨が変形してしまうことによって、首や肩に慢性的な痛みやこり感を引き起こす疾患です。
人間の首は、重さが約5〜6キロもある頭を、7つの小さな骨(頚椎)と周囲の筋肉で常に支え続けています。骨と骨の間には「椎間板」という軟骨があり、首を動かした際の衝撃を吸収するクッションの役割を果たしています。しかし、年齢を重ねると、この椎間板の水分が失われて弾力性が低下し、徐々に潰れて薄くなっていきます。
クッションが薄くなると、首の骨同士が直接ぶつかりやすくなり、不安定になります。人間の体はこの不安定さを補って骨を支えようとするため、骨のふちの部分に「骨棘(こつきょく)」と呼ばれるトゲのような余分な骨を作り出します。この「椎間板が潰れること(椎間板変性)」と「骨のトゲができること(骨棘)」の2つの変化が合わさった状態を、医学的に変形性頚椎症と呼びます。
この変形自体は、年齢とともに誰にでも起こり得る自然な変化(老化現象)の一部でもあります。しかし、変形した骨が周囲の筋肉や靭帯に過剰な負担をかけたり、炎症を引き起こしたりすることで、「首が痛い」「重度の肩こり」といった辛い症状が現れた場合に、初めて治療が必要な「疾患」として扱われます。
なお、変形した骨のトゲがさらに大きくなり、首の神経の根元(神経根)を圧迫すると「頚椎症性神経根症」となり、太い神経の束(脊髄)を圧迫すると「頚椎症性脊髄症」というより重篤な疾患へと進行します。
症状
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首を動かした時、特に「上を向く」あるいは「後ろを振り向く」動作で首が痛い
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慢性的にひどい「肩こり」や、肩甲骨の周囲・背中にかけての張り感がある
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後頭部から首の付け根にかけて、締め付けられるような重だるさや頭痛がする
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朝起きた直後が最も首がこわばって痛く、日中少し動かしていると楽になってくる
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うがいをする、美容室で洗髪してもらう、高いところの洗濯物を干すといった日常動作が苦痛である
など
原因
変形性頚椎症を引き起こし、首の骨やクッション(椎間板)の劣化を早めてしまう原因には、以下のような日常の要因が深く関わっています。
加齢による椎間板の水分減少(最大の原因)
年齢を重ねるにつれて、椎間板の中にある水分が徐々に抜け出ていき、クッションとしての弾力性が失われます。これはある程度避けられない変化ですが、進行のスピードには個人差があります。
不良姿勢(スマホ首・ストレートネック)
スマートフォンやパソコンの画面を長時間覗き込むような「うつむき姿勢」は、首にとって負担となります。頭が本来の位置より前に出ると、首の骨への負荷が通常の数倍に跳ね上がるため、若年層であっても椎間板の劣化や骨の変形を急速に早めてしまいます。
長時間の同一姿勢とデスクワーク
長時間同じ姿勢で座り続けることで、首から肩にかけての血流が悪化し、筋肉が疲労して骨を支える力が弱まります。その結果、骨や関節そのものに直接的な負担がかかりやすくなります。
過去の首の外傷(むち打ちなど)
交通事故や激しいスポーツ(ラグビー、柔道など)によって、過去に首に強い衝撃を受けたことのある方は、靭帯や関節の組織がダメージを受けているため、数十年後に変形性頚椎症を若くして発症するリスクが高くなります。
診断
問診と神経学的検査(視診・触診)
どのような姿勢で痛みが強くなるのかを詳しく伺い、首の動く範囲(可動域)を正確に確認します。また、この疾患において最も見逃してはならないのが「神経への圧迫が始まっていないか」という点です。腕や手にしびれがないか、握力が落ちていないか、指先の細かい動作(ボタンかけなど)ができるかといった神経機能のチェックします。
X線(レントゲン)検査
変形性頚椎症の診断において最も基本となる重要な検査です。首を正面、側面、そして斜めや、上を向いた状態・下を向いた状態など様々な角度から撮影(動態撮影)します。これにより、「骨のトゲ(骨棘)ができていないか」「椎間板の隙間が狭くなっていないか」「首の骨の並び(カーブ)が真っ直ぐになりすぎていないか(ストレートネックの有無)」を明確に確認します。
MRI検査(必要に応じて)
レントゲンでは、骨の形は分かっても神経や椎間板などの「軟らかい組織」を写し出すことができません。手に強いしびれがある場合や、痛みが長期間全く引かない場合には、神経(脊髄や神経根)が骨の変形によって押しつぶされていないかを確認するためにMRI検査を行います。MRI検査が必要と判断した場合は、提携する総合病院等の専門医療機関へご紹介し、スムーズに検査を受けていただけるよう手配いたします。
セルフチェック
ご自身の首の痛みや肩こりが、単なる筋肉疲労なのか、変形性頚椎症の疑いがあるのか、ご自宅で確認できる簡単なセルフチェックリストです。
☑️ 上を向いてうがいをしようとすると、首の奥に痛みや引っかかりを感じる。
☑️ マッサージ店で肩や首を揉んでもらっても、数日ですぐに元通りのガチガチな状態に戻ってしまう。
☑️ 首を回すと「ゴリゴリ」というような骨がこすれる音がする。
☑️ 慢性的な肩こりだけでなく、後頭部が締め付けられるような頭痛がよく起こる。
☑️ 1日のうちで、朝起きた直後が一番首を動かしにくく、痛みを感じる。
治療
変形性頚椎症の治療は、変形してしまった骨を元の綺麗な形に戻すことは手術以外では不可能であるため、「今ある痛みやこりを確実に取り除き、これ以上変形を進行させないこと」を目的とした保存的加療が基本となります。
薬物療法(飲み薬・湿布など)

まずは辛い痛みの悪循環を断ち切るために、ロキソニンやボルタレンなどに代表される非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)の飲み薬や湿布を処方し、関節や筋肉の炎症を鎮めます。しかし、これらの一般的なお薬では抑えきれない強い痛みがあり、日常生活に大きな支障が出ている場合には、「トラムセット」や「ツートラム」といった「弱オピオイド鎮痛薬(非麻薬性の強力な鎮痛薬)」へと段階を上げ、しっかりと痛みをコントロールします。また、首から肩にかけての筋肉が異常に緊張して血流が悪くなっているため、「筋弛緩薬(筋肉の緊張をほぐすお薬)」や、血行を改善するお薬、神経の働きを助けるビタミンB12製剤などを患者さまの症状に合わせて最適に組み合わせます。
物理療法(電気治療・牽引療法)
物理療法を用いて、筋肉の過度な緊張を和らげます。低周波などの「電気治療」を首から肩の筋肉にかけて行うことで、深部の血流を改善し、蓄積された疲労物質や発痛物質を流して痛みを緩和させる効果が期待できます。また、症状によっては、頚椎専用の牽引機を用いて首を優しく上に引っ張る「頚椎牽引療法」を行い、狭くなった骨と骨の隙間を一時的に広げて周囲の筋肉のストレッチ効果を狙うこともあります(※牽引は状態によって向き不向きがあるため、医師が慎重に判断します)。
注射療法(トリガーポイント注射など)
飲み薬やリハビリでもなかなか取れない「芯から痛むような肩こり」や、特定のポイントを押すと激痛が走るような筋肉のしこり(トリガーポイント)がある場合には、その部位に直接、局所麻酔薬などを注射することがあります。
リハビリ
姿勢の根本改善(アライメント調整)
首に負担をかけている最大の原因である「猫背」や「ストレートネック」の姿勢を修正します。頭が体の真上に正しく乗るような重心の位置を体で覚えていただくためのトレーニングを行います。
肩甲骨周囲の可動域訓練とストレッチ
首が痛い方は、肩甲骨の動きが悪くなっています。理学療法士が徒手で硬くなった肩甲骨周囲の筋肉や肩周りの筋肉を丁寧にほぐし、肩甲骨が背中の上でスムーズに動くようにすることで、首の骨にかかる負担を分散させることができます。
頚部周囲の筋力強化(インナーマッスルトレーニング)
潰れてしまった椎間板の代わりに、ご自身の筋肉の力で重い頭を支えられるよう、首や背中の深部にある筋肉(インナーマッスル)を鍛えます。首を無理に大きく動かすのではなく、手で頭を押さえながら力を入れる(等尺性収縮)安全な運動などを指導いたします。
セルフケア・予防
正しい姿勢の意識(スマホ・パソコンの環境整備)
スマートフォンを見る時は、下を向くのではなく、画面を目の高さまで持ち上げるように意識してください。パソコン作業では、モニターの高さを目線に合わせ、深く椅子に座ってあごを軽く引く正しい姿勢を保つことが最大の予防策です。
同じ姿勢を続けず、こまめに休憩をとる
デスクワークなどで30分〜1時間以上同じ姿勢が続く場合は、必ず一度作業を止め、肩を大きく回したり、ゆっくりと首を横に倒したりするストレッチを取り入れて、筋肉の緊張をリセットしてください。
適切な高さの「枕」を選ぶ
高すぎる枕は、寝ている間中ずっと首が不自然に曲がった状態(下を向いた状態)になり、首の骨や筋肉に甚大なダメージを与えます。仰向けに寝た時に、首の骨の自然なカーブを隙間なく優しく支えてくれる、ご自身の体型に合った低めの枕を選ぶことが大切です。
首周りを冷やさない
寒さやエアコンの冷風は、筋肉を収縮させて血流を悪化させ、痛みを引き起こします。夏場でもストールを活用したり、冬場は入浴時に首までしっかりと湯船に浸かって温めたりして、常に血行を良く保つ工夫をしましょう。
Q&A
ただの「肩こり」と「変形性頚椎症」の違いは何ですか?
一般的な肩こりは、長時間の作業やストレスなどで一時的に筋肉が疲労し、血行不良を起こしている状態です。休息やマッサージ、入浴などで筋肉がほぐれれば症状は改善します。一方、変形性頚椎症は、ベースに「首の骨の変形」や「椎間板の劣化」という物理的な構造の問題が隠れています。そのため、マッサージで一時的に良くなってもすぐに再発したり、上を向いた時に骨の奥で痛みが走ったりと、慢性的に頑固な症状が続くのが特徴です。
変形してしまった骨やトゲは、治療をすれば元の綺麗な形に戻りますか?
残念ながら、一度すり減った椎間板や、できてしまった骨のトゲ(骨棘)をお薬やリハビリで元の状態に戻すことはできません。しかし、骨が変形していても、周囲の筋肉の柔軟性を高め、正しい姿勢を身につけて首への負担を減らすことで、今ある痛みを取り除き、通常の生活を問題なく送ることは十分に可能です。
最近、首の痛みだけでなく、手や指先がしびれるようになってきたのですが?
手や腕にしびれが出現した場合は、変形性頚椎症から一歩進行し、変形した骨や潰れた椎間板が首の神経を圧迫し始めているサイン(頚椎症性神経根症など)である可能性が非常に高いです。これは危険なサインですので、自己判断で様子を見たり、無理に首をストレッチしたりせず、まつもと整形外科を受診してください。
首がこって痛い時は、ぐるぐる回したり、自分でポキポキ鳴らしたりしてもいいですか?
首を勢いよくぐるぐる回したり、無理にひねって関節をポキポキ鳴らしたりする行為は絶対に避けてください。変形して不安定になっている関節に急激な負担をかけることになり、椎間板をさらに傷つけたり、神経を刺激して症状を悪化させたりする恐れがあります。ストレッチをする際は、息を吐きながら痛みのない範囲でゆっくりと筋を伸ばすように行ってください。
将来的に手術が必要になる病気なのでしょうか?
変形性頚椎症の段階(首の痛みや肩こりだけの状態)であれば、手術が必要になることはまずありません。お薬、注射、リハビリといった保存的加療で十分に症状をコントロールできます。しかし、治療をせずに放置して骨の変形が著しく進行し、神経(脊髄)を強く圧迫して「お箸が持てない」「足がもつれて歩けない(痙性歩行)」といった重大な麻痺症状が出てきた場合には、神経の圧迫を取り除くための手術が必要になることがあります。そうならないためにも、早期からの適切なケアが重要です。















