ペルテス病とは

ペルテス病とは、太ももの骨(大腿骨)の先端にある球状の軟骨部分「大腿骨頭(だいたいこっとう)」に向かう血流が何らかの理由で一時的に途絶え、骨の細胞に栄養がいかなくなり、骨が壊死(えし:細胞が死んでしまうこと)を起こす小児特有の病気です。
主に3歳から12歳くらい(特に4歳〜8歳)の活発なお子様に発症しやすく、女の子に比べて男の子に約4〜5倍多く見られるという特徴があります。
「骨が壊死する」と聞くと、ご家族は非常に強いショックを受けられるかと思います。しかし、大人の大腿骨頭壊死とは大きく異なる点があります。それは、お子様の骨には「旺盛な自己修復能力(再生力)」が備わっているということです。ペルテス病は、一度血流が途絶えて骨が壊死して潰れてしまっても、2〜3年の長い時間をかけて再び新しい血管が入り込み、新しい生きた骨へと「自然に再生・修復される」という特徴を持っています。
では、なぜ治療が必要なのでしょうか? 問題は、「骨が再生するまでの数年間」にあります。壊死して柔らかく脆くなった大腿骨頭に、歩行やジャンプで体重がかかり続けると、本来は綺麗な真ん丸の球状であるべき骨が、マッシュルームのように平べったく潰れて変形したまま再生・硬化してしまいます。いかに「骨が丸い形を保ったまま再生させるか(包み込み療法:Containment)」が、ペルテス病の治療の最大の目的となります。
症状
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足を引きずって歩く、びっこを引く(跛行:はこう)
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「足の付け根が痛い」だけでなく、「膝や太ももが痛い」と訴える
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股関節の動きが硬くなり、あぐらをかくような動作ができない
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じっとしている時は痛まないが、運動後や夕方に痛みが強くなる
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痛い方の足の筋肉が細くなったり、足の長さが短くなったりしている
など
原因
ペルテス病の直接的な原因は「大腿骨頭への血流の遮断」ですが、なぜ成長期のお子様の股関節で突然血流が途絶えてしまうのか、その根本的な原因は現在の医学でも「完全には解明されていない(特発性)」のが実情です。
しかし、いくつかの要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。
血管の未発達
小児期の股関節周囲の血管(大腿骨頭へ栄養を送る血管)はまだ発達途中で細く、もともと血流が滞りやすい(阻害されやすい)脆弱な構造をしています。この未熟な血管系になんらかのトラブルが生じることが発症の引き金になると考えられています。
繰り返される微小な外傷(メカニカルストレス)
非常に活発でよく走り回る男の子に多いため、ジャンプなどの繰り返しの衝撃が、発達途中の細い血管にダメージを与えているという説もあります。
体質的な要因
血液が少し固まりやすい体質(微小な血栓ができやすい)などが影響している可能性も研究されています。
遺伝性は極めて低く、ご家族がご自身を責める必要は全くありません。特定の食べ物や育て方が原因でもありません。重要なのは原因探しではなく、「早期発見」です。
診断
詳細な問診と視診・触診
「いつから歩き方がおかしいか」「痛がるのはどの部分か」を確認します。そして、仰向けに寝てた状態で、左右の足の長さに違いがないか、股関節がどの程度開くか(開廃制限の有無)を丁寧に確認します。
X線(レントゲン)検査
診断の基本となる最も重要な検査です。骨が白く硬くなっている時期(硬化期)、骨が細かく割れて吸収される時期(分節期)、新しい骨が作られる時期(修復期)など、ペルテス病が現在どの段階(病期)にあるのか、また骨がどれくらい潰れているかを評価します。
MRI検査
発症して間もないごく初期の段階では、レントゲンには異常が全く写りません(これが「成長痛」と誤診されやすい最大の理由です)。症状からペルテス病を疑った場合、軟骨の状態や骨の血流低下をいち早く捉えることができるMRI検査を非常に重視しています。必要と判断した場合は、小児整形外科に対応できる提携先の総合病院へ速やかにご紹介します。
セルフチェック
お子様の足の痛みや歩き方の違和感が、ペルテス病のサインかどうか、ご自宅で確認できる簡単なセルフチェックリストです。
☑️ 数週間前から、歩く時や走る時に足を引きずっている(跛行がある)。
☑️ 膝をぶつけた傷はないのに、「膝が痛い」「太ももが痛い」と頻繁に訴える。
☑️ 仰向けに寝かせて、両足の裏を合わせてカエルのように股関節を開こうとすると、痛がって開けない、または左右で開き具合が違う。
☑️ 3歳から10歳くらいの活発な男の子である。
☑️ 夕方や、外で激しく遊んだ後に痛みを訴えることが多い。
治療
ペルテス病の治療の基本方針は、壊死した骨が再生するまでの数年間、柔らかくなった大腿骨頭が体重で押し潰されて変形するのを防ぐために、ボール(大腿骨頭)をソケット(寛骨臼)の中にしっかりと深く入れ込んで守る「包み込み療法(Containment:コンテインメント)」です。発症年齢、病期、壊死の広さによって治療法を選択します。
1. 保存療法(経過観察と装具療法)
◯経過観察
発症年齢が若く(概ね5歳以下)、壊死の範囲が狭い場合は、骨の再生能力が非常に高いため、激しい運動(ジャンプなど)を控えるだけで、特別な治療を行わなくても綺麗な丸い形に修復されることが多くあります。
◯装具療法
壊死の範囲がやや広い場合、両足を開いた状態(がに股)を強制的に保つための特殊な装具(外転装具など)を装着し、骨が丸い形を保ったまま再生するのを助けます。ただし、装具は長期間(1〜2年)装着する必要があり、お子様への負担が大きいため、近年では長期間の装具を避けて手術療法を選択するケースも増えています。
2. 手術療法(骨盤骨切り術・大腿骨骨切り術)
発症年齢が高い(6歳以上、特に8歳以上)、骨の壊死範囲が広い、あるいはすでに骨が少し外側にズレて潰れ始めている場合には、確実な「包み込み」を得るために手術療法が推奨されます。 大腿骨や骨盤の骨を意図的に切り、角度を変えてボールがソケットに完全に入り込むように金属で固定する手術です。手術後は早期に装具なしで歩行や通学が可能になり、お子様の精神的ストレスを大きく減らせるというメリットがあります。
リハビリ
関節可動域訓練(ストレッチ)
お子様が痛がらない範囲で、股関節を開いたり回したりするストレッチを毎日継続して行います。関節が柔らかい状態を保つことが、ボールをソケットに深く収めるための絶対条件となります。
免荷(めんか)での筋力トレーニング
骨が柔らかい時期は体重をかけること(荷重)が骨の変形を招くため、寝た状態で足を上げ下げする運動などを行い、太ももやお尻の筋力低下を防ぎます。
水泳・水中運動の推奨
水の浮力を利用したプールでの運動は、大腿骨頭に体重の負荷をかけずに、関節を動かしながら全身の筋肉を鍛えることができる、ペルテス病の最高のリハビリテーションです。
セルフケア・予防
ペルテス病の発症そのものを未然に防ぐ予防法は残念ながらありません。しかし、重篤な後遺症(股関節の変形)を残さないための「二次予防(早期発見と患部の保護)」が何よりも大切です。
「足を引きずる」症状を見逃さない
お子様は痛みを言葉でうまく表現できないことがあります。「ちょっと歩き方が変だな」「走るのが遅くなったな」という「動きのサイン」を見逃さないことが、早期発見の最大のポイントです。
体重のコントロール
治療中(骨の再生期間中)に体重が急激に増えると、柔らかい骨を押し潰す力が強くなってしまいます。バランスの取れた食事で適正な体重増加にとどめるよう、栄養管理にご配慮ください。
ジャンプや高いところからの飛び降りを禁止する
診断を受けた後は、トランポリンや遊具からの飛び降りなど、股関節に瞬間的に全体重の何倍もの衝撃がかかる動作は厳禁です。学校の体育や休み時間の過ごし方について、担任の先生ともしっかりと情報を共有し、安全な環境づくりを行ってください。
Q&A
子供が「膝が痛い」と言っていますが、股関節のレントゲンを撮るのですか?
はい、必ず股関節も確認します。股関節の神経と膝の神経は繋がっているため、ペルテス病をはじめとする小児の股関節疾患では、実際の患部である股関節ではなく「膝や太ももの痛み」として症状が出ることが非常に多い(関連痛)ためです。膝にケガがないのに膝を痛がる場合は、股関節の病気を疑うのが整形外科医の鉄則です。
治療期間はどのくらいかかりますか?
ペルテス病は、壊死した骨が吸収され、新しい骨が完全に作られて硬くなるまで、平均して2年〜3年という長い年月がかかります。その間、病気の進行段階に合わせて装具療法や松葉杖、活動制限などが必要になります。お子様にとってもご家族にとっても根気のいる治療となりますが、焦らずにじっくりと治していくことが将来のために不可欠です。
大人になってから、歩けなくなるなどの後遺症は残りますか?
ペルテス病の予後(将来どうなるか)は、「発症した年齢」に最も大きく左右されます。5歳以下で発症した場合は、自然に綺麗な丸い形に修復される確率が高く、後遺症を残すことは少ないです。しかし、発症年齢が高い場合や治療の開始が遅れた場合、大腿骨頭がマッシュルームのように変形してしまい、30代〜40代という若さで「変形性股関節症」を発症して痛みに悩まされるリスクがあります。だからこそ、専門的な治療による「包み込み療法」が重要なのです。
スポーツや体育の授業はいつから再開できますか?
新しい骨が十分に出来上がり、強度がしっかりと回復するまでは、走る・跳ぶといった激しいスポーツや体育の授業は禁止となります。通常は発症から数年間は活動制限が必要です。ただし、上半身を使う運動や、浮力を利用できる「水泳」については、医師の許可が出れば早期から参加可能な、むしろ推奨されるスポーツです。定期的なレントゲン検査で骨の再生状況を確認しながら、少しずつ許可を出していきます。
ペルテス病は遺伝しますか?下の子もなるのではないかと心配です。
ペルテス病の明らかな遺伝性は証明されておらず、遺伝する確率は非常に低いとされています。ご兄弟で発症するケースはごく稀(1〜2%程度)ですので、必要以上に心配されることはありません。ただし、ペルテス病に限らず、小さなお子様が足を引きずっている場合は、どのような病気であれ早急な診察が必要ですので、気になるサインがあればいつでもご相談ください。















