母指CM関節症(ぼしシーエムかんせつしょう)とは

母指CM関節症とは、親指の付け根にある「CM関節」の軟骨がすり減り、骨同士が直接ぶつかり合うことで炎症や変形を起こす変形性関節症の一つです。
「CM関節」とは、手首のすぐ近くにある「大菱形骨(だいりょうけいこつ)」という小さな骨と、親指の土台となる「第1中手骨(だいいちちゅうしゅこつ)」という骨の間に位置する関節です。この関節は、親指が他の4本の指と向かい合い、「つまむ」「握る」という人間特有の複雑で力強い動作を可能にするための、非常に特殊でよく動く構造(鞍関節:あんかんせつ)をしています。
物をつまむ時、親指の指先にかかる力は、テコの原理によってCM関節ではその何倍(10倍以上とも言われます)もの大きな圧力がかかります。この強力な負担が長年にわたって蓄積されることで、クッションの役割を果たしている軟骨が摩耗してしまいます。 進行すると、関節の隙間が狭くなり、骨のフチに「骨棘(こつきょく)」と呼ばれるトゲのような骨の変形ができたり、関節を支えている靭帯が緩んで親指の土台の骨がズレてしまったり(亜脱臼)します。
症状
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ペットボトルやビンのフタを開ける時に親指の付け根が痛い
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ドアノブを回す、鍵を開け閉めする時に痛む
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タオルや雑巾を固く絞ることができない
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ハサミを使ったり、ホッチキスをつまむと痛い
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親指の付け根(手首に近い部分)がポッコリと腫れてきた
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親指を開いたり動かしたりすると「ゴリゴリ」と音がする
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痛みをかばっているうちに、親指の別の関節や手首まで痛くなってきた
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進行すると、何もしていなくてもジンジンと痛む(安静時痛)
など
原因
加齢と軟骨の摩耗
最も大きな原因です。長年の手の使用により、関節のクッションである軟骨がすり減少し、弾力を失うことで発症します。
指の酷使(オーバーユース)
料理や裁縫などの家事、農業や手作業の多い職業(美容師、調理師、漁師、工場での組み立て作業など)、近年ではスマートフォンの長時間の片手操作なども、関節の寿命を縮める大きな要因となります。
女性ホルモンの低下
母指CM関節症は、閉経後(更年期以降)の女性に圧倒的に多く見られます。女性ホルモン(エストロゲン)が急激に減少することで、関節を支える組織が脆くなり、骨のズレや軟骨のすり減りが進行しやすくなると推測されています。
関節の緩さ(靭帯の弛緩性)
もともと関節が柔らかい(靭帯が緩い)体質の方は、CM関節の安定性が低いため、摩擦が起きやすく早期に発症する傾向があります。また、過去に親指の付け根の骨折や捻挫を経験している方もリスクが高まります。
診断
問診・視診・触診
どのような動作で痛むか、いつ頃から痛いかを詳しく伺います。親指の付け根の腫れや変形の度合いを目視で確認し、痛む場所を指で押して圧痛の有無を調べます。
グラインドテスト(軸圧捻転テスト)
親指の骨を手首側(大菱形骨)に向かって強く押し付けながら、グリグリと円を描くように回します。この時に強い痛みが出たり、「ゴリゴリ」という骨の擦れる音(捻髪音:ねんぱつおん)が生じたりすれば、母指CM関節症の疑いが極めて強くなります。
X線(レントゲン)検査
診断を確定し、病期(ステージ)を判定するために必須の検査です。関節の隙間がどれくらい狭くなっているか、骨棘(トゲのような変形)ができているか、骨のズレ(亜脱臼)があるかを確認します。進行度は通常、Eaton(イートン)分類という4つのステージで評価されます。
超音波(エコー)検査
レントゲンでは写らない「関節の中の炎症の強さ(水が溜まっているか、血流が増加しているか)」や「周囲の靭帯の緩み」をリアルタイムで確認します。
セルフチェック
ご自身の親指の痛みが母指CM関節症のサインかどうか、ご自宅でできる簡単なチェックリストです。
☑️ 反対の手の人差し指を、痛い方の親指と人差し指で「強くつまむ」と、親指の付け根にズキッと痛みが走る。
☑️ 親指を大きくパーに開こうとすると、付け根が痛くて開ききらない。
☑️ 痛い方の手と痛くない方の手を見比べると、痛い方の親指の付け根が外側にポッコリと張り出している。
☑️ 親指の付け根を反対の手でつかみ、軽く押し込みながら回すと「ゴリッ」という嫌な感覚がある。
※複数当てはまる場合は、関節の変形が始まっている可能性が高いです。放置せず、まつもと整形外科へご相談ください。
治療
装具療法(サポーター)
治療の第一歩であり、非常に効果的です。親指の付け根(CM関節)だけを硬い素材でしっかり固定し、手首や他の関節は自由に動かせる専用のサポーターを装着します。関節のグラつきを抑えることで炎症を鎮め、仕事や家事を行いやすくします。
薬物療法(飲み薬・塗り薬)

痛みが強い急性期には、非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)の飲み薬や湿布、塗り薬を処方し、患部の炎症を抑えます。
エコーガイド下関節内注射
装具や飲み薬で痛みが取れない場合、関節の中に直接ステロイド薬を注射します。まつもと整形外科では、超音波(エコー)画像を見ながら針先をミリ単位で正確に見極める「エコーガイド下注射」を行っています。痛みの原因となっている数ミリの狭い関節の隙間に、少量のステロイド剤酸をピンポイントで的確に注入するため、安全性が高く、劇的に痛みが改善することが多いです。
手術療法
保存的加療を数ヶ月から半年続けても痛みが改善せず、日常生活に大きな支障が出ている末期の場合には、手術を検討します。関節を固定して痛みをなくす「関節固定術」や、自分の靭帯や腱を使って関節を再建する「関節形成術」などがあります。手術が必要と判断した場合は、手の外科を専門とする連携病院へ責任を持ってご紹介いたします。
リハビリ
徒手療法(マッサージとストレッチ)
硬く縮こまった親指の付け根の筋肉(母指内転筋など)を理学療法士が優しくほぐし、関節にかかる圧力を逃がします。
動作指導
指先だけでつまむ「ピンチ動作」は関節への負担が最大になるため、物を持ち上げる時は「手のひら全体で抱え込むように持つ」、ハサミではなく「電動シュレッダーを使う」など、関節を長持ちさせるための具体的な「手の使い方」をアドバイスいたします。
物理療法
超音波治療器や電気治療などを用いて、患部の深部の血流を改善し、慢性的な痛みや筋肉の緊張を和らげます。
セルフケア・予防
自助具(お助けグッズ)の活用
ペットボトルを開けるための専用オープナー、電動缶切り、太くて握りやすいペンなど、100円ショップや介護用品店で手に入る「自助具」を積極的に活用し、親指への負担を徹底的に減らしましょう。
痛む動作を避ける(手のひらを使う)
ドアノブは丸いものではなくレバー式のものに変えるか、両手で回すようにします。フライパンや重いお皿を持つ時は、片手で柄を握るのではなく、両手で底を下からすくい上げるように持ちましょう。
温めて血行を良くする
腫れや熱を持っている急な痛み(急性期)の時は冷やすべきですが、慢性的なジワジワとした痛みやこわばりには「温めること」が有効です。入浴時に湯船の中で手を温めながら、痛みのない範囲で優しく親指の付け根をさすってマッサージしてください。
スマートフォンは両手で操作
片手でスマホを持ち、同じ手の親指で画面をスワイプし続ける操作はCM関節に深刻なダメージを与えます。スマホは片手で持ち、もう片方の人差し指で操作する習慣をつけましょう。
Q&A
同じ親指の付け根が痛くなる「ドケルバン腱鞘炎」とは何が違うのですか?
痛む場所と原因が異なります。「ドケルバン腱鞘炎」は、親指を伸ばすための「腱」が、手首の側面(親指側)で擦れて炎症を起こす病気です。一方「母指CM関節症」は、もう少し手のひら寄りの「骨と骨の関節」そのものがすり減る病気です。
なぜ女性に多いのでしょうか?男性はならないのですか?
男性でも発症することはありますが、患者さまの多くは更年期以降の女性です。これは、関節を柔らかく保ち、炎症を抑える働きを持つ「女性ホルモン(エストロゲン)」が閉経を機に急激に減少するためです。女性ホルモンが少なくなることで靭帯が緩み、長年の家事などで酷使してきた関節の摩耗が一気に進んでしまうことが大きな要因と考えられています。
痛み止めや注射でごまかしていると、将来どうなりますか?
一時的な痛み止めだけで根本的な負担(手の使い方など)を減らさずに使い続けると、軟骨の摩耗と骨の変形が確実に進行します。最終的には親指の付け根が大きく脱臼した状態で固まり、ペットボトルを開けるどころか、お箸を持ったりボタンを掛けたりすることすら困難になってしまいます。変形が完成する前に、装具療法やリハビリで進行を食い止めることが大切です。
痛い時は温めた方が良いですか?冷やした方が良いですか?
時期によって異なります。親指を使いすぎて急激に痛みが出た時や、患部が腫れて熱っぽく感じる時(急性期)は、保冷剤などで軽く冷やして炎症を抑えてください。一方、普段からの慢性的な痛みや、朝起きた時の関節のこわばりに対しては、お湯やカイロで温めて血流を良くすることで筋肉がほぐれ、痛みが和らぎやすくなります。
装具(サポーター)は寝ている時も着けていた方が良いですか?
基本的には、家事や仕事など「手を使う時」に装着して関節を保護することが目的です。就寝中は手を使わないため、血流を妨げないよう外していただくことをお勧めしています。ただし、寝ている間に無意識に指が動いて痛んで目が覚めてしまうような強い症状がある場合は、夜間も緩めに装着していただくことがあります。医師やスタッフにご相談ください。















